帽子屋・お松単独ライブ『タリル』
12月20日、道頓堀ZAZA HOUSEにてピン芸人、帽子屋・お松の単独ライブ『タリル』が行われました。約1年ぶりに単独ライブを開くという帽子屋・お松。『タリル』では全6章からなる一人芝居で魅せました。
満足と書いて「みち・たりる」と読む男の独白シーンからスタート。男は病院のベッドの上、病室は一人部屋のようで壁一枚隔てた隣の入院患者と会話をしています。ですが、その患者はしゃべれないようで、男の会話にノックで相槌を送るのみ。それでも会話が成り立つことに気を良くした男は自身の半生を語り始めます。
名は体をあらわすということわざのとおりか、男は“満足の奴隷”と化してしまったと言います。何をするにしても満足しないと気が済まない。自分自身はもちろん、相手にもそれを求めてしまい、やがてかかわる人すべてに満足するように仕向け、強要してくのだとか…。
学生時代の男は教師に、学校のテストの問題の、その内容に「満足しない」と詰め寄ります。そして満足するために新たな問題とその答えを模索しますが、内容は支離滅裂。満足しているのは男ただ一人の様子。
続いて青年時代の男。別れた恋人の家を訪ねた男は、その元恋人に自分と付き合ったことでどれだけ満足したかと迫ります。そして、自分のことをよく思ってもらおうと必死にアピール。ですが、別れた理由については「(彼女の)名前が悪い」など理不尽なことばかり。それでもそんな自分は悪くないと頑なです。
男はやがて小学校の教師になり、子どもを教える立場になるのですが、自分をあざ笑ったと思う児童をつるし上げます。そして将来の夢を無邪気に語る児童たちに、もっと現実的に、具体的に語るべきだ!と自分の望む答えを強いるのでした。泣き出す児童もいる中、男の目の前に強敵が現れます。将来は本屋になりたいという木村くんです。姓は木村、名は本屋と書いて「もとや」。この木村君こそが、男の言う「名は体をあらわす」を地でゆく子。利発な木村くんが具体的に将来の夢を語ることに焦り始め、“本屋での接客勝負”を挑んだところ、男はあっさり負けてしまうのでした。
そして結婚をして、一人娘をもうけた男。一見、穏やかな家庭を築いたかと思いきや、やはりここでも満足を求めているようで、妻にも娘にも自分の思想を押し付けます。そして遂には離婚を切り出されて…。
満足を求めることで心無い暴言を吐き、多くの人間を傷つけてきた男。そんな男の狂気と悲哀を、情感豊かに表現する帽子屋・お松。男の行動がエスカレートするごとに、男が帽子屋・お松に乗り移ってゆくようで最終的には完全に満足(みち・たりる)にしか見えず。そんな帽子屋・お松の迫真の演技に、お客さんもどんどん引き込まれていました。
男はその半生を語りつくしたと同時に、後悔を覚えます。それは、男が生涯で初めて抱いた感情でもありました。後悔を知った男はやがて静かに息を引き取り、物語も幕を閉じました。そして、最後の最後にはオカルトじみた一幕もあり、思わずぞっとする“おまけ”もついていました。
約1時間の舞台を終えた帽子屋・お松は、こうした一人芝居公演を行うことについて、「自分でも年々、どこに向かってんねんって思うような方向に行っていますが」と前置きしつつ、「こんな舞台ですが年に1回だけ、お付き合いくださればと思います。すごく楽しい時間でした。また来年もできたらやりたいと思います!」と“満足”しきった様子。お笑いのライブとは一味異なる帽子屋・お松の芝居公演、次回もどうぞご期待ください!