【ライブレポート】枝三枝改メ六代桂文枝襲名披露公演@国立劇場大劇場
9月12日(水)、東京・国立劇場大劇場にて『桂三枝改メ六代桂文枝 襲名披露公演』が行われました。
東京で桂文枝初お披露目ということもあって、チケットは即日完売。1600席が満員御礼のなか、公演はスタートしました。
トップバッターを務めた桂文三は、「ご来場ありがとうございます。私、桂文三でございます。怪しい者でございます」とひと笑い。六代文枝の弟弟子であり、五代文枝の22人中18人目の弟子である文三は「上(の兄弟子)がなかなかお亡くなりになりません」と笑いを誘いながら、『伊勢参宮神乃賑』こと『東の旅』より『もぎどり』を軽快に披露しました。
続いて、登場したのは立川談春さん。
「今世紀最初にして最大のお披露目」と祝辞を述べながら「本当にね、すごい方々ばかりで緊張しています。楽屋がものすごく豪華なんです」と目を見開きます。「……私、今、落語界ではブイブイ言わせてるんですよ? 久しぶりに頭を下げました」と笑わせながら、「しかも、ここは国立劇場! ナショナルシアターですからね。すごいことです」と感嘆します。
自身の師匠である故・七代目立川談志さんについて、「いちばん怖い人はこの世にはいなくなった。……お披露目にこんな挨拶でいいんでしょうか」と言いながら、元の噺は上方から東京へ持ち込まれたと言われ、談志さんの名代である『かぼちゃ屋』を披露しました。
桂文珍は、「今日は兄弟子の六代目桂文枝襲名披露公演にお越しいただき、まことにありがとうございます」とお客さんにお礼を述べます。定年退職を迎えた同級生から「弟子にしてくれ」と言われたというエピソードや奥さんとの日常のやりとりを交えながら、上方落語『ぞろぞろ』を披露しました。
仲入り前最後は、春風亭小朝さん。『源平盛衰記』を描いた『扇の的』を時代風刺を取り入れながら、滑らかな口調で語られました。
仲入り後は、口上。桂きん枝司会進行のもと、桂文枝、笑福亭鶴瓶さん、桂文珍、春風亭昇太さん、春風亭小朝さん、立川談春さんが並びます。
まずは桂文珍が挨拶。
「私ども一門総領が長い間、先代文枝にいただいた三枝を大きく大きくして参りました。この度、師匠の名、文枝を襲名するということになりまして、一門総意で新しい文枝を支えようということになりました。先代の弟子の中ではいちばんお兄さんでして、2番目(であり、本日の司会進行を務めるきん枝)、これが頼りない。今日は流暢やったんでビックリしました。やればできるんやなと思いました」と語ると、隣りでおどけてみせるきん枝。
「今後、文枝という名をより大きくしていくのは大変と思います。年齢はこの中で最年長ですが、(文枝は)誠に健康なんです。……お父さんは戦争で亡くなりました」と余計な一言を付け加えると、文珍の両隣に座っていたきん枝と鶴瓶さんがたまらずツッコみます。
さらに「本名は河村靜也と申しますが、お母さんと靜也少年はふたりきりでご苦労なことやったと思います。お母様もいまだお元気で、98歳」と語ると、いてもたってもいられず、文枝も「92!」とツッコんでしまいます。さらに「五代目……あ、六代目か!」とむちゃくちゃな文珍に、一同大爆笑。「大きくなるのは、皆さんのご贔屓あればこそ。文枝をお願いするようなところでございます」となんとか締めくくりました。
この口上に、きん枝が「まことに感動的な!」と声を張り上げると、鶴瓶さんから「どこがや!」とツッコミが。相も変わらずまったく動じず、目を細めて笑う文珍でした。
立川談春さんは、立川一門の話を交えながら感動あり、笑いありの話を展開します。
「(六代文枝は)生前、談志を愛してくださいました。“文枝を継ごうと思います”と病院へ来てくれた時には、とろけるような笑顔で喜んでおりました。ああいう人なので素直には喜ばず、襲名会見の時にはすでに声は出なかったのですが、震える手で“三枝のばかやろう”と……」と話すと、会場からは大きな笑い声が。
「“三枝には伝わるはずだ”と手振りだったと、長男から伺いました。吉本興業の100周年の柱のイベントとして、襲名公演があるとのこと。カッコいい男の花道だと感じております」と賛辞をおくりました。
きん枝から「社団法人上方落語協会副会長!! 楽屋では“えびす顔の悪魔”と呼ばれています」と紹介されたのは、笑福亭鶴瓶さん。
これまでの流れに、「もっと固い挨拶を考えてたのに……こんなんでええの? 文珍兄さん、めちゃくちゃやな」と呆れたようにつぶやきます。
「私は三枝兄さんに憧れて、三枝兄さんの背中を追ってずっとここまできました。一緒に番組をやらせてもらったりと、可愛がってももらいました。ぶっちゃけ、お兄さんに笑うてもらおうとなんでもやりました。9月の『彦八まつり』では、三枝さんが作詞してキダタローさんが作曲した歌を歌って……(会場から笑いが起こると)何笑うてまんねん(笑)。2日目は三枝くんっていうぬいぐるみをみんなが来る前に被って、ずっと座ってました。……若手から「足が老けてる」と言われて……誰が老けてるねんと思いましたが、最後にぬいぐるみの頭を取って出て来た僕の顔を見て、兄さんがいちばん驚いてくれたのが嬉しかった。僕は三枝という名前がなくなるのが悔しいんですよ。追いつきたくても、もう追いつけないわけですからね。これからの文枝を、皆さんは平成の生き証人として追い続けてください。僕も追い続けますので、皆さんも(興行へ)足を運んでいただきたいと思います」と愛情たっぷりの言葉をおくりました。
きん枝から、「落語芸術協会理事!」と声高らかに紹介された春風亭昇太さんは、「皆さんが思ってるよりも偉い昇太です」と、まずは挨拶。
「東京の口上はもっとあっさりしてるんですけど、(上方は)口上に20分使うんですね。……談春くんと僕の高座は15分です(笑)。ただ、(口上の)重要性をひしひしと感じています。僕は静岡県出身で落語には縁がなく、『笑点』『ヤングおーおー!』を観て、“落語家ってこういうものなんだ”と思いながら育ちました。『ヤングおーおー!』に出ていた方(文枝)がほぼ原形を留めて、今もいらっしゃる……」と語ると、頭を抱える文枝。「『笑点』もすごくてですね、私が子どもの頃、おじいちゃんだと思ってた人がまだおじいちゃんなんですよ」と続けると、会場からは大きな笑い声が起こります。
「文枝師匠には新作創作落語家として本当にずっと長生きしてもらいたい。……いい人は早く死ぬと言いますが、先ほど長命だとのお話もあったので(笑)。先頭を突っ走っていただきたいと思います」と語りました。
ここまで立派に進行を務めていたきん枝でしたが、春風亭小朝さんの紹介時に「落語協会を自ら辞められた」と切り出してしまい、すかさず鶴瓶さんから「理事をや! 落語協会ちゃう!」とツッコまれてしまいます。
きん枝がうなだれると、隣りに座っていた文珍が「最後の最後でやらはったな」とポツリ。鶴瓶さんも「司会、文珍兄さんがやったほうがよかったんちゃう?」と追い打ちをかけます。
すると、「そうは思たんやけど、文珍に口上を話してもらわな格好がつかん言うてな」と喋り出す六代文枝。「すみません。口上で本人が喋ったん、初めて観ましたわ」と慌てる鶴瓶さんでした。
そんな周囲にも動じず、小朝さんは「本日はようこそお越しくださいました。六代目文枝の誕生、新しい文枝ということで“しんぶんし”と呼びたいと思います」と落ち着いて挨拶。
さらには、名前の専門家に“三枝”と“文枝”の違いを聞いてきたとのことで発表。これには、六代文枝も興味津々です。
「“三枝”は“さ”と“し”と舌の弾むような名前を“ん”でつないでいるため、爽やかで知的でジェントルマン。口腔表面で発音する音が多いからか、人に入り込まず、さらっとした人間関係を好みます。一方、文枝は“ぶん”という破裂音からスタートするため、権威と威圧を人に与えてしまいます。ですが、人と深く関わっていかなければならない名前のため、後輩の面倒をみたり、落語界の今後について考えたりとストレスが溜るそうんだです。また、“三枝”と違って、“文枝”はひとつのことに集中して前に進むと大きなものを手に入れる名前なので、この時期の襲名はベストだそうですよ。色で喩えると、ペパーミントグリーンから深緑に変わったような感じだそうです。“大きなものを手に入れる”といえば、残っているのは人間国宝。文枝師匠はなる方だと思います。ですが、次に(桂)歌丸師匠がなられるとしたら、(文枝がなるには)あと10年かかります。それまでいろんな方と今まで以上に関わって、後輩を引っ張っていってもらいたいと思います」と自身の意見を交えながら、激励しました。
「ちなみに、文珍さんは“ぶん”という威厳を“ちん”が台無しにしているそうです」と付け加えると、会場は爆笑。文珍も高らかに笑い声を上げていました。
最後は、小朝さんが音頭をとり、六代文枝自らが望んだという東京風の三本締めにて、口上は終了しました。
口上後、再び高座が始まりました。
春風亭昇太さんは「オリンピック、面白かったですね」という話題から、銅メダルでも悔しがる柔道選手たちについて触れ、“お家芸”と“国技”の意味合いや違いについて流暢に語ります。「今回のオリンピックで一生懸命練習しても、結果が出ないこともあることを改めて感じた」と話しながら、「それを踏まえて、僕の落語を訊いてもらいたい」と見事な落としを披露。その後、上方落語『ちりとてちん』(『腐豆腐』)を口演しました。
笑福亭鶴瓶さんは、六代文枝と故・七代立川談志さんのエピソードで笑わせたのち、私落語と評する自らの学生時代の思い出を盛り込んだ『青木先生』で、会場を大いに沸かせました。
トリを務めるのは、もちろん六代桂文枝。“桂文枝”仕様の座布団が運び込まれると、いっそうの大きな拍手が鳴り響きます。静かに登場した六代文枝は「ありがとうございます」と深々と頭を下げたのち、「東西の落語家の方々が盛り上げてくださって、嬉しいことでございます。今後も今までと変わらず、ご贔屓いただけますようよろしくお願い申し上げます」と挨拶しました。
公演の前日、スカイツリーを訪れたそうで、「高さが634メートルあるんですが、その高さは“六代になる三枝”という意味なんやないかなと。……実際は、“むさし”らしいんですけどね」と笑いを誘います。周囲に“文枝”という名前をなかなか覚えてもらえないそうですが、「襲名して2日後、千日前通りで“文枝さーん”と声をかけられたのに、私も慣れないから自分が呼ばれていると気づきませんでした。肩を叩かれて、“あんたやがな!!”と言われました」と笑いながら語りました。
“桂三枝”名義最後の創作となる『芸者ちどり24才』を披露後には、「東京の落語家さんに助けていただいた」と、ゲストに再度感謝の言葉を述べる六代文枝。「名前を背負って船出いたしまして、襲名披露公演は1年8ヵ月続きますが、健康に気を付けて頑張っていきたいと思っております。どうぞよろしくお願いいたします」と頭を下げると、会場からは割れんばかりの拍手が響き渡りました。
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