「価値が変わりつつある時代への、心の準備運動をしに来て欲しい」とアピール! 舞台『時代に流されろ!』の再演で脚本・演出を務めるマンボウやしろへインタビュー!!
3月27日(金)から29日(日)まで、東京・本多劇場にて上演される舞台『時代に流されろ!』。昨年5月に東京・神保町花月からキャストを一新して行なう大注目の舞台の、脚本と演出を務めるマンボウやしろに、本作の見どころや脚本執筆に至った敬意、また彼がさまざまな作品へ注入している思いなど、じっくり聞きました!
――東京・神保町花月で初披露された同名公演の再演となりますが、再演のきっかけは?
観に来てくれた知り合いのプロデューサーさんが「再演しよう」と声をかけてくれたんです。......最近、思うんですよ。自分が面白い話を書いてさえいれば――もちろん、芸人としてもそうで、面白いネタをつくってさえいれば――人が動いてくれるんだなと。以前は自分が動くことが仕事に対するアプローチだと思ってたんですけど、僕はすごく苦手で。どうしても性に合わないなと思ってたんですけど、昨年くらいから僕がつくったお話を再演しようとか言ってもらえるようになったので、僕は話を創る時間を大事にしときゃいいんだなって。モノを大切につくっておけば、動いてくれる人がいるんだなと思いました。芸人も芝居が上手いっていうよりは、表現力が上手い人がどんどん増えてきていて。(初演に出演した)ピクニックやシューレスジョーもそうですけど、僕が書いた話のキャラクターをイメージや持っている存在感とかエネルギーみたいなものをよりいいものに仕上げてくれる時があるんです。個々がそうやってレベルアップしてくれたら、僕も"ここももうちょっと上げて(高いものを要求して)みよう"と思えてきて、台詞もちょっと変わってくるんですよ。で、自分が初め想像してたよりも話として全体が押し上がったものができて。それがお客さんに喜んでもらえたりすると、"うわ、すごい。出演者に助けられたな"と感謝したりもするんです。『時代に流されろ!』も、初演のメンバーが違っていたら再演しようと言ってもらえなかったと思うんですよ。......だから、今は表現の上手い人としかやりたくないなと思ってます。
――すごくいいお話をしてくださってるなと思いながら聞いていたら、まさかのオチでした(笑)。
ふはははは! だって、(上手い人が演じていない場合は)自分の書いた話が死んじゃう可能性もあるってことですからね。
――今作の出演者は押見さん以外、役者さんばかりで。永野さん、福田さんとは何度か共演されていますし、小林さんはコンビ時代のライブ『カリカ+MEETS』に出演されてたりしつつも、ここまで役者さんばかりの公演で演出するというのは......。
初めてです。だから不安ですよ。押見は僕の通訳というか、演出する時に(やり方を)わかってくれる人がいてくれると助かるなということで入ってもらいました。それに、押見にはもっと外へ出て欲しい。犬の心なんて2人とも芝居できるし、外の舞台とかドラマに出たっていいと思う。2人以外にも芝居の腕だけ立っちゃってる奴、いっぱいいますからね。みんな、もったいないですよ。だから、押見にとっても何かしらのきっかけになればいいなと思ってますけど。
――2月1日に神保町花月で開催された伊勢大貴さんとの公開顔合わせライブでは、役者さんへの演出方法について悩んでいると話されていたそうで。
悩んでいました。でも、(主演の)伊勢くんと呑みに行った時に思ったんです。僕はお笑いの演出はできますけど、お芝居の演出に関してはまだまだ素人。だから、とにかく話を真剣に考えて、脚本も真剣に書いて、役者さんに"こういう話なんでこういうふうに伝えたいんです"ってことを真っ直ぐに告げようっていう、ずるい情熱みたいなものだけで勝負しようって。テクニックないのに遠慮しててもいいことはないですし、気持ちだけガンガンぶつけていってみようかなって今は思ってますね。
――そのライブで伊勢さんと話してみて、どんな印象を持ちましたか?
今時の若者なのかなと思っていたら、古風というか。古いタイプの男性的な考えたかを持っていて好感を持ちました。(伊勢さんの演じる)主人公も古いタイプで誠実な心の持ち主にしようと考えていたのでピッタリだなと思いましたし、イベントを一緒にやったりお酒を呑みに行ったりして感じたことも脚本に活かせたらなと。河合(龍之介)さんとの顔合わせライブも、もうちょっと早くやらせてもらえば良かった。(ライブの開催される)3月1日までには脚本を書き上げようと思っているので(註:このインタビューは、2月下旬に行なわれた)。
――伊勢さんから感じたものも活かしていくということは、初演とは脚本もかなり変えるんですね。
変えます! 初演は出演者が芸人ばっかりだったし、お笑いの舞台なので笑いをベースに考えがちだったんですけど、今回は最悪、笑いを削ってでも話を掘るほうに文字数を使おうと。だから、初演とは全く違うものになると思いますよ。劇場のサイズも大きくなりますし、セットも変わるし。打ち合わせしたらセットがかなり面白くなりそうで、そうすると脚本の構成もまた変わってきたりして。ただ......チケットのお値段がね......かなりプレッシャーなんですけど......。
――(笑)芸人さんの場合、単独ライブ以上のお値段ですもんね。
そうなんです。お芝居では普通の値段だって言われますけど、普通に生活している人に6000円出してもらうって。僕が出す立場なら、ちょっとした隙も見逃さないっすよ(笑)。「あそこの演出、ちょっと緩かったよね。これで6000円取ってんの?」ってなりますもん。2000円(初演のチケット前売料金)だったら、本当はあそこにあいつがいなきゃいけなかったのにいなかったぞ、ってなったとしても、お笑いだから面白ければそれでもアリじゃないですか。でも、6000円はそういう値段じゃないからプレッシャーなんです。あと、10何年前に本多劇場でやらせてもらったんですけど、その時は全然準備ができなくて散々な結果に終わったんです。だから今回はリベンジです! そしてこれを機に、僕も外へ外へと出て行きたいなと思っているんです。
――外へ外へ、ですか。
はい。2016年にサイコロを振って「1」の目が出なかったら、強制的に芸人を辞めなきゃいけないかもしれないんで。
――その公約、まだ生きてるんですね(笑)。
ふふふ。Twitterの自己紹介文からは消しましたけど、テレビでも言っちゃってますからね。世の中の人全員が忘れてくれていたらいいんですけど、しょうがない。自分で言ったことですから。まぁ、「1」が出なかったら"そういうことだったんだろうな"と納得して、脚本家を名乗ろうかなと思ってますけど。
――もしかしたら失礼に当たるかもしれないんですけど、やしろさんは芸人というものにこだわっていないような、そんな印象があって。
芸人の生き方とか"芸人道"とか、芸人の友達は死ぬまで大事にしたいと思って生きてきたんですけど、一昨年昨年くらいからラジオと舞台のことをたくさん評価してもらったり、声をかけてもらったりしているから、テレビとへのステップだとか芸人のイレギュラーな仕事だとかではなく、いただいたものを一生懸命やるのが筋だろうと思ってやってるんですよ。だからこだわってないと言えば、こだわってないのかもしれないですけど......。
――すみません、言い方が悪かったです。こだわりはもちろんあると思うんですけど、"これはできない"だとか"芸風と違うからやらない"だとかっていう変な固執は持ってないなという意味でした。
あぁ、確かにそれはないですね。明日からテレビスターになれるなら、ラジオも舞台を辞めるかもしれないし! いやでも、ラジオも喋っていたいなぁ......。舞台もやっていたいしなぁ......。(じっくり考えて)結局、全部やりたいです。ふははは!
――(笑)まぁ、2016年までまだ少し時間があるので「1」の目が出ることを祈って、今回の舞台に話を戻します。不老不死がテーマだそうですが、どういうきっかけでそれを題材にしようと思ったんですか?
2013年に、ふと思ったんです。不老不死って無敵の体みたいに切っても死なないし、病気にもならないものだと思ってたんですけど、IPS細胞とかが出てきて臓器の取り替えが効くようになると、"あれ? 不老不死って肉体が死なないことないんじゃないかなって。ということは、脳みその切り替えができるようになるのが、不老不死100%だな"と思ったんですよ。要は、脳みそのデータ化が可能になることが不老不死なんじゃないかと考え出したら、"これ、結構早いうちに実現するぞ。早めに話にしなきゃな"と思ったんで、脚本にしたんです。初演はそれくらいの考えで書きましたけど、それから色々と調べたりしてると、違う角度が出てきて。
――例えば、どんなことですか?
老化って今までの医学では"防ぐ"という考え方しかなかったみたいなんですけど、スーパーコンピューターの性能が上がり過ぎて予定よりも早くゲノムや遺伝子が解明できたことによって、遺伝子の10何個になんらかの薬を投与すると細胞が若返るようになっているらしくて。マウス実験もされていて、あと30年くらいで実用化されるらしいんです。そうなると、人が死なないんですって。
――人が死なない?......それ、怖くないですか?
怖いですよね。伊勢くんともそういう話をして、「どうする? そういう薬ができたら飲む?」って訊いたら「飲まないです。俺は絶対」って言ってました。でも、自分の好きな人だけじゃなく、嫌いな人も飲むんだって考えると、今、絶対飲まないって言ってる人も飲むようになると思うんですよ。それに薬が存在する段階で産まれた世代は、当たり前のように飲むじゃないですか。そうやって人間の心なんて、どうあがいたって科学とか技術にどんどんすごい勢いで流されて捨てられていくかもしれない......っていうことを、今回はお話にしました。その辺の、すげぇ恐ろしい雰囲気が出せたらいいなと思ってます。
――やしろさんはコンビの後期くらいから――単独はもちろん『林theキャット』とか『カリカ+MEETS』とかで――人がなるべく観ないように目を背けていることを真っ向から題材にしているから、拝見するとドキッとさせられることが多くて。観るたびに刺激を受けているんですが、敢えてそういうことを取り入れてるんですか?
どうっすかねぇ? 脚本なのか演出なのか、それとも総合的なのかわからないんですけど、基本、僕のど真ん中にある芸風は、観た人が"なんなんだろう? どういう気持ちなんだろう? 楽しいでもなければ悲しいでもなくて、ムカつくでもなくて......わからないけど心がどこか動いたな"って思ってもらえるようなことなんだと思うんです。あとは(作品ごとに)その成分をどうずらすか、みたいなことで。で、そういうことを意識していると、人間の心のほうにどんどん攻撃力が上がっていくというか。面白いって声を出して笑えるものじゃなく、観ている人が戸惑うような言葉選びにどんどんなっていくんだと思います。
――なるほど。あと、ピンになったくらいからですかね。死生観的なことであるとか子孫繁栄とかっていう人間の根源にあることを、積極的に題材にされている印象です。
7年くらいラジオをやらせてもらって、全国にこんなにもイジメられている子がいて、こんなにも親に虐げられている子がいることを知ったんです。毎晩、喋ってる全国の子ども達を勝手に好きになったし、父性愛みたいなものも湧いてきたりして。で、2011年に東日本大震災が起こってリスナーに亡くなってしまった子もいたり、両親が亡くなった子に会いに行って話したりしてると......ちゃんと命のことを真剣に書かないといけないんじゃないかなって。で、自分も結婚して親にもらった愛情をバトンとして渡すだけだなと思った。2009年から2012年までの間に――コンビ解散も含めて――考え方が死ぬほど変わったので......なんか誠実にやりたいなっていう気持ちが強くあるんですよね。
――そういう気持ちで書いている言葉だからこそ、心に刺さるのかもしれないですね。
そう言っていただけると有り難いです。芸人と呑んでいると、人間ってどういうものかを話しながらケンカしたりするんですけど、いろんな人に話を聞いたところ「あんまりそういう話はしない」って言ってたんです。けど、なんていうか......お金がどんだけなくても、20年後にその悩みはどの道、解決してるんですよ。20年後、お金がなくて死んでるかもしれないし、お金が増えているかもしれない。そういう、ある意味で表面的な悩みは時間とともに解決するんです。今すごく大っ嫌いな上司がいたとしても、30年後にはどちらかがいなくなってるかもしれないし、仲よくなってるかもしれない。だけど、人間がどんなふうに生きるかっていう悩みは、時間で答えは出るもんじゃない。"愛情ってなんだろう?"って思っていても、30年後、答えは出ていないかもしれないじゃないですか。
――確かに、30年経ってもわからないかもしれない。
そうなると、こういう問題において大事なのはどれだけ考えたか、だと思うんです。答えのないクイズみたいなものを皆で見つけて議論していないと心の成長は中々できないから、僕は話し合うんです。だから観てくださる人にとって、今作が話し合うきっかけになればいいなというか。"あれ? これ、考えなきゃいけないことなんじゃないの?"って思ってくれる機会にしたいですね。......本当に価値観の変わる時代は、すぐそこまで来ているみたいです。昨年の単独ライブでも少しだけ触ったんですけど、不老不死になったら子どもなんか誰もつくらなくなるし、愛情自体もなくなる。お金持ちが、世界中に自分の分身を増やす時代も来るかもしれない。だって、子どもよりも愛情が注げる存在って、自分のコピーだけかもしれないじゃないですか。
――そうなったら、とんでもないですね。
とんでもないっすよ。20年前と今、時代が変わり過ぎてると思いませんか?
――そうですね。20年くらい前に思い描いていた未来と違い過ぎて、正直戸惑ってます。
ですよね? 時代の進む速度みたいなものが、昔、計算していたよりも速まってるみたいです。スーパーコンピューターの情報処理能力が上がり過ぎて、遺伝子がより早く解明されたりと世界で起きているあらゆることの処理能力が上がっているため、この先もっと変わっていくみたいですよ。でも、そうなると人の心が保たなくなる。......今作は僕にとってそういう問題の入り口的なお話。この先は、もっともっといろんなお話を書きたいと思っています。
――『時代に流されろ!』は、やしろさんが考えている壮大なテーマの序章に過ぎないと。お話を聞いて、今後の未来を考えるためにも色んな人に観ていただきたいなと思いました。
はい、6000円で価値が変わるかもしれない時代への心の準備運動をしていただければと思います。是非、観に来てください。
●公演情報
時代に流されろ!
脚本・演出:マンボウやしろ
出演:伊勢大貴、小林顕作、梨木智香、高橋明日香/河合龍之介/永野宗典、押見泰憲、福田転球
日程:3月27日(金) 18:30開場 19:00開演
3月28日(土) 13:30開場 14:00開演 / 17:30開場 18:00開演
3月29日(日) 12:30開場 13:00開演 / 16:30開場 17:00開演
会場:本多劇場
チケット:前売6000円/当日6500円(税込/全席指定)
問い合わせ:0570-550-100(チケットよしもと)
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【マンボウやしろ】