【ライブレポート】マンボウやしろ告別ショー2012「ピザババアの唄」
6月10日(日)、東京・博品館劇場にて『マンボウやしろ告別ショー2012「ピザババアの唄」』が開催されました。
昨秋コンビを解散し、ピン芸人として活動をスタート。今年から芸名も“マンボウやしろ”と改め、これまでさまざまな活動を行ってきました。
そんな彼が、コンビ時代から重きを置き、自らを奮い立たせて大切に行ってきたのが単独ライブ。よしもとニュースセンターでは、2日間にわたって行われた同ライブの千秋楽の様子をお届けします。
今回は、2年前に行われた『カリカ単独ライブ「しゃべるコント」』にて披露されたコントの登場人物“ピザババア”の半生が、長編コントのような構成で3時間に渡って綴られました。
中国の奥地にある小さな村で、兄(犬の心・押見)と暮らしていた少女・りんりん(マンボウやしろ)。両親をなくした2人は旅の途中である村へとたどり着きます。そこで、初めて“ピザ”を口にする兄妹。あまりの美味しさに、兄は「将来、困っている子ども達にピザをたくさん食べさせたい」という夢を持つようになるのです。しかし、とある理由でりんりんだけが日本へ養子に出されることになり、「ずっと一緒に暮らそう」と誓ってくれた兄と離ればなれになってしまいます。
高校生になったりんりんこと沢田かりん。里親からは愛されない彼女でしたが、先輩(コッセこういち)へ初めての恋心を抱いたことをきっかけに、“スタンド”と呼ばれる分身のような存在を手に入れます。名前は、堀川のおじさん(コンマニセンチ・堀内)。「スタンドを出せば付き合ってあげる」という言葉を真に受けて生み出したものの、結局、先輩の恋人にはなれることはできません。
大人になってからも、堀川のおじさんと共に生活し続けるかりん。愛されたいと望みつづける彼女は、ある日、自宅のテレビから流れてきたニュースに呆然とします。それは、窃盗団の一人が死亡したというもの。テレビから聞こえる兄と同じ名前に動揺した彼女が不意にしてしまった行動により、大切な存在だった堀川のおじさんが犠牲になって命を落としてしまいます。
いつか会えると信じていた兄だけではなく、絶大な信頼を寄せていた堀川のおじさんにも先立たれ、心の拠り所がなくなってしまったかりん。36歳の彼女は過去のトラウマからか、恋人のしんご(ノンスモーキン・中尾)へ歪んだ愛を押し付けてしまいます。自らの意思=相手の意思だと信じて疑わないかりんですが、その結果、しんごを追い詰めることに。精神を壊し、廃人となった彼をただただ見つめるしかできません。
時は経ち、歳を取ったかりんは“子ども達へピザをたくさん食べさせたい”という兄の夢を叶えるように、ふらりとやってきた少年(ジューシーズ・兒玉)へピザを振る舞います。そんななか、彼女の起こしたある行動に対して抵抗しようとした少年にナイフで刺されてしまうのです。
命を取り留めながら、妖怪となってしまったかりん。自ら“ピザババア”と名乗り、同じく妖怪のネクハゲや仲間と一緒に百鬼夜行の旅へ出ることになります。ネクハゲや仲間から必要とされることに喜びを感じていたピザババアですが、目標が達成されると、再び一人に。
真っ暗な海で、ネクハゲから突然「家族のところへ帰る」と告げられた彼女。改めて闇の中に取り残され、孤独のあまりに慟哭してしまうのでした。
マンボウやしろは、エンディングで「全部フィクションですよ」と念を押すように語っていましたが、ピザババア自身をマンボウやしろの過去&現在と重ねながら観ていた方も多かったのではないでしょうか。
14年間ともに歩んできた、いわば戦友である相方を失ったマンボウやしろ。自身のブログでは「僕にはライバルという感覚がない(中略)『知名度や集客でいつかカリカに勝たなくちゃ単独ライブ始める意味がない!』と強く思いました(中略)なのでまずはカリカVSマンボウ\(^o^)/そんな気持ちです」と綴っています。
たしかに大きな存在を失ったという心の傷や悲しみは、なかなか言えるものではないのかもしれません。一人でお笑いという世界へ改めて飛び込むことに対しても、きっと恐れもあるでしょう。ですが、単独ライブという彼にとって非常に意味のある大切な場所で、本当の意味で“カリカ”に別れを告げ、“マンボウやしろ”として新しい道を歩んでいくんだ。別れは必ずしも悲しいことではない。一人だからこそできることを楽しむんだ。――そんな決意がイベント全体に散りばめられていたように感じました。
物語の終盤には、ネクハゲや仲間達と別れて一人になり、孤独と悲しみに打ち暮れたはずのピザババアが唄を熱唱する場面も。「愛を育てよう/出会って笑って別れ/別れて泣いて出会う」と柔らかい笑みを浮かべながら歌うマンボウやしろ。お世辞にもうまいとは言えない歌声でしたが、なぜかじーんと胸に響くものがありました。
エンディングで深々とお辞儀をするマンボウやしろへ、お客さんから温かい拍手が起こります。
出演者全員を呼び込んだエンディングトークでは、「クレームはここでしか聞かない。ここで聞かせて」と言い出すマンボウヤしろに対して、「あれしかないよね?」と目を合わせる出演者陣。唄の終盤、某有名アイドルの曲をワンフレーズ歌うことが全員、納得がいかなかったようです。
「大事な最後のメッセージをなぜ他人に託すの?」と押見に詰め寄られると、「照れが出た。お客さんに“どうしたの?”って思ってもらいたいライブだったから」とあっさり白状するマンボウやしろ。「それ、説明してもらってない!」と口々にぼやく出演者陣に対して、「そっちこそ始まる前に、僕以外で円陣組んでるよね。頭おかしいでしょ!」と反撃していました。
最後、舞台へ一人残ったマンボウやしろは『マンボウやしろ”襲名興行』の時と同じ様に正座し、お客さんへ語りかけます。
「貴重なお時間とお金を使ってくれて、本当にありがとうございました。僕が思う芸人はオモチャみたいなもの。サイコロを振るのを見て、皆さんには人生楽になっていただければなと。今年(単独ライブを)やるか迷いましたが、やってよかったなと素直に思います。本当にありがとうございました」
深々と頭を下げるマンボウやしろ。鳴り止まない拍手は、一歩一歩踏みしめるようにまだ見ぬ未来へ前進していく彼へのエールかのごとく、暗闇の中、力強さと熱を持って鳴り響きます。
その拍手は、会場が明るくなってからも止むことはありません。皆さんの思いに応えるべく、再び舞台へ登場したマンボウやしろ。マンボウのフィギュアとキスをし、晴れやかな表情を浮かべる彼に、さらに大きな拍手が響き渡りました。