【ライブレポート】立教大学池袋図書館開館記念フォーラム 特別講義(ピース・又吉)
10月9日(火)、立教大学 池袋キャンパス タッカーホールにて開催された『池袋図書館開館記念フォーラム』にて、ピース・又吉直樹が特別講義を行いました。
以前、ニュースでもお伝えしましたが、同イベントは立教大学・池袋図書館のリニューアルを記念して行なわれたもの。又吉は「なぜ読むのか」という題材のもと、約50分間ひとりで語りつくしました。
このイベントの模様は11月7日(水)の読売新聞東京本社版の朝刊にも掲載されましたが、遅ればせながらニュースセンターでもレポートします。
上手より登壇した又吉は「こんばんは」と、まずは挨拶。緊張のあまり、小さく笑いを漏らしつつも「たくさんの方にお集りいただき、ありがとうございます。こういうところで講義なんて初めてです。みなさん、本は好きですか? 本が好きな人……(会場を見渡しながら)何名か手が挙がってないですね(笑)」などと、コミュニケーションを図ります。
同講義のテーマは“なぜ本を読むのか?”。「2、3日考えたけど、答えの出ないまま、ここに来ました」という又吉は、まず本を読み始めたきっかけについて語り始めました。
近代文学を読み始めたのは、国語の便覧がきっかけ。系譜を見ながら気になる作家を見つけては、その作家の本を読んでいたそうです。いちばん読んでいたのは18〜19歳の頃で、友人たちとカラオケボックスへ行っても、カラオケの本の“だ行”で“太宰”を探していたほど、本に没頭していたとか。
「夢にも活字が出てきました。それも本を読んでる夢じゃない。ものすごいデカイ本の上に、僕が浮遊している夢だったんです」と、当時を振り返ります。
本題である“なぜ本を読むのか?”について、又吉は「感覚の確認作業と発見作業」だとコメント。普段感じていながらも言葉にしたことがなかったものが、本の中に的確に書かれていると驚きつつも、「気持ちいい」という感覚が味わえるんだそうです。
「得体の知れないものというのは、誰しも不安じゃないですか」と前置きしながら、小学生時代のエピソードで喩えていきます。
「公園で草サッカーをしているときに、知らんオッサンが指示してくるのが怖かった。けど、友だちに言うのはダサイなと思って感情を隠してたけど、ある日、友だちが“あのオッサン変やな”って言うてくれて。それがすごくうれしかった。そのオッサンはいっつも(ジュースの)缶の上に座ってたんで、みんなで“ミルクティー”ってあだ名つけました。最初、オッサンも得体の知れないものだったけど、あだ名をつけた瞬間、安心できた。そういう安心や共感を得られるのが、僕にとって本なんやと思います」(又吉)
“発見作業”の説明については、太宰治の『親友交歓』を例にあげつつ、またもや自身のエピソードを披露。
下北沢の駅前で先輩と待ち合わせをしていた又吉の元へ近づいてきたのは、変なオッサン。肩を組まれ「……やってんだろ?」と訊かれた又吉は、とっさに「何を?」と質問してしまったんだそうです。すると、その人は「ブルース!」と即答。執拗にライブへ誘われたものの、遅れてきた先輩が助けてくれ、ことなきを得たそうですが、「その瞬間、驚いてしまったし、興味を持ってしまった」と又吉。小説に対しても“巻き込まれたい”という願望が強いそうで、「小説の中に見つけた自分らしき人が、よからぬほうに展開していくとハッとするんですよね」と語ります。
上記の話から、「本=得体の知れないオッサンのような興味」と結論づけた又吉でしたが、「今日は本よりオッサンの話が多くなってしまった」と反省しきり。「今日寝る前に、なんであんなことを……と思ってしまうかもしれない」とつぶやきつつも、またもやオッサンエピソードを語ります。
2年前、風呂なしアパートに住んでいた頃の話。「近所の変なオッサンは全員、僕と同じアパートに住んでいた」と言う又吉。特に、夜中から朝まで本を読んでいたファミレスでよく見かける男性を、“プリーズ”というあだ名で読んでいたそうです。なぜ“プリーズ”なのか? それは、オーダーするときに「コーヒー、プリーズ」と頼んでいたからだとか。
その方も、同じアバートの住人だということが判明。ある日、流し台の冷水で頭を洗っていたところ、隣りに人の気配を感じた又吉。見上げると、“プリーズ”氏が大根のかつらむきをしていたというのです。そして、「私、大学で心理学を学んでいたから、職業がわかるんだ。……当てていい? 陶芸やってるでしょ?」と話しかけられたそうです。
「朝、コーヒーを飲んでいる“プリーズ”に共感できたし、知識をひけらかしたい気持ちもわかる。で、アホなことも言ってしまうところに、おもしろさを感じたんです」(又吉)
ここまで熱く語りながらも、「本好きのイメージ=根が暗いっていうのが歯がゆい。僕が本を好きというと、本を好きな人が全員暗いと思われるのでは。ネガティブキャンペーンをやっているのでは、不安になる」と吐露します。
ですが、やはり本への思い入れはやはり強いようで、「シリアスで深刻なものも乗り越えていけるきっかけが、本にはある」と本の素晴らしさを力説していました。
本も好きな又吉ですが、「単純に言葉が好き」ともコメント。「どんな単語でも、耳元で言われれば笑ってしまう」というほど言葉が好きな彼は、子どもの頃、広辞苑を使った独自の遊びを開発したそうです。
この日は家から持参したという広辞苑第2版で、その遊びを再現することに。
「電車に乗って寝ているおじいさんに言われたら嫌なこと」というお題を決めて、辞書を引く又吉。適当なところをめくって出てきた言葉は「できあがり」。また、「飼ってる九官鳥が言い出したら嫌な言葉」というお題では、「キャプテン」を引き当てます。どちらとも、会場では大きな笑い声が響きました。
「読書体験と芸人との相関性はありますか?」という聴講者からの質問には、「すごい質問ですねぇ……」と笑いながらも、「たぶん本を読んでいることでできた言葉の蓄積が、無意識に出ていることはあると思います。直接的にはどうやろう。本を読んでなかったら芸風も変わってたかもしれない。もしかしたら、ダンス中心の芸をやっていたかもしれない」と返答。
「NSCのネタ見せでは、当時読んだ本を漫才のネタに落とし込んでたこともありました。けど、あんまりうまくいかなかった。いまは血となり骨となったものが、知らず知らずのうちに出てるんじゃないかなと思います」と真摯に語ります。
また、「読書は好きなんですけど、又吉さんが好きな純文学は敬遠してしまいます。難しい本と出会ったときはどうしていますか?」という質問には、「僕は最後まで読んで、わからんかったとしたらもう1回読みます。ただ、タイミングもありますよね。夏目漱石の『それから』を初めて読んだときは難しく感じたんですけど、100冊くらい別の本を読んだあとにもう1回試してみたら理解できました」とわかりやすく答えていました。
最後に“なぜ本を読むのか?”という今回のテーマに立ち返り、「本がおもしろいから読む、ということです」と締めくくりました。
その後は作家・町田康さん、石川巧立教大学図書館長と1時間に及ぶトークバトルを繰り広げました。
先ほどの又吉の講義を受け、町田さんは「読書とか共感と発見。言葉そのもののおもしろさに掻き立てられるという3点、とても共感しました」とコメント。「広辞苑の話もおもしろかった。お金がかからないですしね」と共感した様子です。
20歳までは図書館利用に抵抗があったという町田さん。「ですが、絶体絶命の貧困ゆえに利用してみたら、万感の書物に出会えた」と語ると、又吉は「僕もお金がないときは、古本屋のワゴンセールで5冊で100円の本を買っていましたし、三鷹、吉祥寺の図書館もよく利用してました」と同意していました。
町田さんの小説が好きだという又吉は「町田さんの本を読んでいると、(本の世界に)入り込んでしまいます。共感もあれば、驚きもあるし、さらに狂気もある。しかも笑えて……本を読むときに欲しいものがすべて詰まっています。町田さんは唯一無二の存在です」と絶賛。町田さんから語られた『告白』執筆時のエピソードには、興味深く耳を傾けていました。
最後に、本日の講義を踏まえての立教大生へのオススメの本として、町田さんの『告白』と西加奈子さんの『ふくわらい』を挙げた又吉。『告白』については「布団の横に置いてあった、カバーのない本を持ってきました。この本には、生きていく中で必要なものが書かれています。これは、何十年先まで読まれていく小説」と紹介しました。
また、学生のみなさんには「僕から言うのもなんですが、(毎日を)楽しんでください。興味のあることは観に行ったり、やってみたり、一度話を聞いてみたりしてほしい。おもしろいことを自分で見つけてください」とメッセージを送りました。
【又吉直樹】【ピース】