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2015年8月 5日 (水)

『芸人と俳人』刊行記念 又吉直樹×堀本裕樹 『つくらない句会』

7月24日(金)、東京・自然派ワイン食堂クラクラにて『「芸人と俳人」刊行記念 又吉直樹×堀本裕樹 「つくらない句会」』が開催されました。

『芸人と俳人』は、芸人であるピース・又吉直樹と気鋭の俳人である堀本裕樹さんによる共著。興味を持ちながらも「俳句をつくるなんて恐ろしくてできない」と語っていた又吉さんが、堀本さんに弟子入りして2年間、俳句を学ぶうちにその面白さにどんどん気付いていく過程が丁寧に描かれた1冊です。

この日行なわれたイベントは、又吉の芥川賞受賞後初めてとなるトークライブ。
「忙しいでしょう? 大変な時期にこうやってイベントができるのはありがたいことですよ。受賞後、初めてお会いするのかな?」と言う堀本さんは、先に行なわれた又吉主催のライブ『実験の夜』をこっそり観に行ったそう。「途中で気付きました(笑)。割と早い段階でわかりましたよ」と言う又吉は「何しんとんねん!と思いました?」という問いかけに、「ウケてないなぁと思っているところで笑ってくれていて心強かった」と答えます。
ニュースで連日取り上げられることにはかなり戸惑いを感じているようで、「嘘が多いですよね。昨日、ブレンディのボトルコーヒーのイベントがあって。"又吉さん振られたらしいですね"って訊かれたんですけど、僕、あのボトルコーヒーのエッセイに振られた話を4本書いてるんですよ(笑)。このタイミングやと、そんなことも訊かれるんやなぁと思いました」と語ると、堀本さんが「(ニュース記事を)呼んで欲しいという気持ちが先走ってしまうんでしょうね」と渦中の又吉を気遣いました。
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そして「みなさんと乾杯しましょう」と、堀本さんはアップルジュース、又吉はオレンジジュースで乾杯しました。
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堀本さんに「大きなリュックを持ってましたけど、本が入っているんですか?」と訊ねられた又吉は「ほとんど本です。今は10~12冊入ってます」と返答。会場から驚きの声が挙がる中、堀本さんも「そんなにいつ読むんですか!?」とビックリした様子。又吉が「今は芥川の全集を持ち歩いていて、あと3冊と歳時記1冊で14冊ですかねぇ。歳時記はお得。季語はもちろん、季語を使った句が載っているので(どういうふうに使えばいいか)わかりやすいんです」と語ると、「俳句は歳時記を持つところからスタートして欲しいですね。そうすると、季節に敏感になれますよ」と同調する堀本さん。「明かりにも季語があって、今だと"夏灯し"ですね。夜も今だと"短夜"で、秋になると"夜長"。夜長はよく使いますけど、短夜は知っておくとかっこいいんちゃうかなと思いますよ」と語りかけました。

『芸人と俳人』を「又吉さんの俳句の成長物語」と称する堀本さん。「その過程が見事に章立てになって読むことができます」と言われた又吉は「どんどん俳句が好きになっていきました。連載当初は2年もやれば句会とかに笑いながら行けるのかなと思っていたけど、(2年経って)怖さはまだありますけどコケても受け身は取れるようになった気がします」と"好き"が"自信"にもつながったようです。

前回、B&Bにて『安全第一句会』を開催した両人。「この中で句会をやったことある人」という問いかけに3人ほど挙手。「そうかぁ、まだまだ頑張らないといけないですねぇ」と気を引き締める堀本さんに、又吉は「興味はあるけど句会を開く機会がないだけなんじゃないかなと。フットサルもそうですよ。この中でフットサルしたことある人」と呼びかけ。も、句会よりも多い人数の手が挙がり、「あっ、多い。6人くらいですけど」と笑います。
「今回は句をつくらなくても、句会ができるということをやりたい」とイベント主旨を説明する堀本さん。今回の句会は堀本さんが選んだ10の句の中からお客様全員、好きなものを選んでいただいて人気投票を発表し、その後いろいろとトークするという形式で行なわれるもので、「有名な俳人の句も入っている分、気軽に選べると思います」とお客様へ話しかけます。すると、「有名な人ばかりとは限らないんですか?」と又吉。「その辺は、あとで明かします。ヒントとしては、俳人以外の俳句もあります」と答えられると、「こっわ......有名な人のばっかりやと安心して、好きな句を選んでしまいました」と少し動揺していました。
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みなさんが選んだ2句、そして又吉が3句(そのうち、1句は特選)を集計。寄稿者に選んだ理由についても話してもらいながらまとめた結果、「蝉鳴いて母校に知らぬ師の多し」がいちばん多くの票を集めます。
この句を詠んだのは、寺山修司。堀本さん曰く、「寺山修司は最初、俳句をつくっていたんです。そこから短歌、ラジオドラマ、小説、映画とどんどん世界を拡大していったんですけど、亡くなる前には"もう一度、俳句をつくってみたい"とも話していた」そう。「若い頃の句なんですか?」と訊ねる又吉に、「20代くらいのものなんでしょうね」と答えます。
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又吉が特選としたのは、お客様の票が3番目に多かった「さくらんぼプッと吹き出しあとさみし」。
「さくらんぼってめちゃくちゃ楽しみでしょう。さくらんぼあるやんと思って食べると"実ぃ少な!"って思う(笑)。高級なイメージがあるんで、さくらんぼを食べること自体が楽しいんですけど、プッと吹き飛ばしたあとの喪失感......。お祭りとか文化祭のあとみたいなものも感じました」と選んだ理由について語ります。
「説得力のある選評ですね。プッとというところにリアリティがある」と賛同した堀本さん。この句を詠んだのは渥美清さんで、「渥美さんは最初、浅草のフランス座で芸人として出発した人なんですよね。コメディアンとして活躍後、どんどん売れて俳優として『男はつらいよ』に出て国民的俳優になったんですよね。そんな渥美さんの句を、又吉さんが特選として選んだので驚きました」と語ります。「色々といいなと思う句はあったんです。ただ、ぱっと見、ポップでわかりやすいんですけど鑑賞すればするほど、具体的なイメージが湧いて来たので選びました」と言う又吉に、「渥美さんは私生活は静かだったそうで、寂しげな句が多いんですよ」と堀本さん。「映画の中では人を笑わせながら、仕事が終わったあとの私生活では(寅さんのイメージを壊さないために)あまり外を歩かんようにしてたと聞いたことがあります。その静かな感情を詠んだとすれば、なるほどなぁと思いました」と言いつつ、「ええなぁ。こんなん言いたいですもん」とポツリ。大いに頷きながら堀本さんは「わかりやすいけど、じわっと来ますよね。渥美さんは"風天(ふうてん)"という俳名を持っていたそうですよ。かっこいいですね」と同調しました。
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また、選んだ「たそがれてなまめく菊のけはひかな」については、「"たそがれてなまめく"という表現が面白い」と又吉。「家の中におって、まだ電気をつけなくてもいい時間帯と昼間やと、菊は表情変わりそうやなぁと。僕も時間の流れで菊を眺めてみたいなと思いました」と感想を語ります。
この句を詠んだのは、宮沢賢治。「菊の気配を人間のように捉えているんですよね。宮沢賢治の俳句は写生的。法華経に感銘を受けていたそうで、写生を深く描いているものが多いんですよ」という堀本さんの説明に「面白い句ですねぇ。響き合っていく感じがする。菊の見え方も変わりますし、こんな色っぽい雰囲気があるんですね」と感心しきりでした。

選んだもう1句「拝みたる位置退きて滝仰ぐ」は、俳人・茨木和生さんの句。
「これ、どういう関係なんやろうと思いました。最初、離れて滝を観てたところから歩いて近づいて、バッと滝を仰ぐイメージですかねぇ」と話す又吉に、堀本さんは「僕は最初、滝の近くにいたんじゃないかと思う」と返答。その意見を聞きながら、「自然のもの全般に、すごさを感じますよね。明らかに何か(力が)あるやとっていう感じがありますよね」と答える又吉でした。
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そのほかの句についても、堀本さんの説明をもとに、解釈を深めつつトーク。「俳句ってつくった人もわかると、なお面白いですね」と語る又吉は、堀本さんに「又吉さんが渥美さんの句を選んでくれて良かった。作者が明かされると、イメージが広がる感じがあるでしょう?」と話しかけられると、「宮沢賢治の句もそうなんやと驚きましたし、寺山修司でもこういうこと言うてくれんねやと思いました」と返答。俳句への関心をますます深めたようでした。
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撮影:山口こすも


●書籍情報
芸人と俳人
著者:又吉直樹、堀本裕樹
価格:1300円(税抜)
発刊:集英社


【ピース】【又吉直樹】