POISON GIRL BAND単独ライブ「あの頃の漫才2000~2013と新作60分漫才」
3月8日(土)、東京・ルミネtheよしもとにて『POISON GIRL BAND単独ライブ「あの頃の漫才2000~2013と新作60分漫才」』が開催されました。
約8年半ぶりに行われる単独ライブとあって、前売り券は早くに完売。立ち見が出るほどの盛況ぶりです。
会場の左右にある大型ビジョンには、カメラマンの河村正和さんが彼らのデビュー当時から撮り続けた写真の数々が、その時代のヒットソングとともに写し出されます。まずは、歴代の宣材写真が。最初のものでは肩くらいまでのセミロングで茶髪だった阿部。吉田は今より短く髪を刈り込んでいます。以後、漫才1本終了するごとに、その時代の写真が写し出されるという流れが、「あの頃の漫才」では続きました。
その後、おなじみの出囃子とともに登場したPOISON GIRL BAND。
「立ち見まで出ていただいてありがたいですね」とお礼をまず口にしつつ、「2人ともお互いジャケット買えるようになりまして。流されているVTR……やめてほしいですね」と言いながら、後ろでは聴こえないくらいの小声、しかも早口でぶつぶつとつぶやく吉田。
「行き着いたのが、グレーとグレー」と舞台衣装を茶化された阿部は、「赤で調和してます。お前は中がグレーだな」と笑いながら、「ド頭、喋らないって言ってたじゃん(笑)」と指摘。吉田は「あまりに恥ずかしかったから言い訳したくなったんだよ」とぶっきらぼうに返答しました。
このやりとりでスイッチが入ったのか、べらべらと喋り始める阿部。漫才に入ろうとする吉田の言葉を遮ってまで、靴を指して「スニーカー買ったの? どこのヤツ? アディダス? ナイキじゃないの?」とまくしたてる彼が放った「くそつまんねぇボケ」というフレーズを、吉田は「15年つまんねぇんだから」とばっさり斬り返しました。
1本目の「ペーパードライバー」から、PGBワールドは全開。「ハンドルは丸かった?」「タイヤは4つあった」など、超現実的な事例を取り上げて会話を繰り広げていきます。以前、吉田が「阿部ちゃんの喋り方では(ボケとツッコミという)普通の漫才ができないから、自然とこのかたちになった」と話していたのですが、緩やかでマイペースなテンポで進みつつも話題はループするというやりとりは、すでに彼ららしい“とどまる笑い”が確立されています。
2本目「スフィンクス」も、非常に不条理なネタ。あり得ない設定ながらも、“そうしている阿部”を頭の中に思い描くことができるし、そう想像しただけで笑える……という、彼らの発想のすごさを感じられる漫才。も、阿部が“そのスフィンクス”と言ってしまったことを見逃さない吉田。「その、付けちゃうと詩的になるから。いま初めて出て来た言葉なんだよ? いつ出て来たの?」と笑いながらツッコみました。
3本目「真剣10代しゃべり場」は当時流行っていたテレビ番組を題材にしたものですが、こちらも上記2本同様、デフォルメが光ります。また、改めて感じるのは、彼らの漫才に出てくる言葉の強烈さ。「あたし、アキレス腱、切れてます」など、聞き手に創造性を持たせるようなフレーズは、いまもなお斬新だと感じさせるものばかりです。
続いては、2004年から2008年まで。大型ビジョンには、初めての単独ライブ『カド番』での1枚、駒沢公園で行った運動会の1枚など、芸人らしさの増した2人の写真が写し出されます。阿部の写真とある曲がリンクした時には、ハチャメチャな阿部プロデュースの『東京シュール5』の終演後に起こった“帰れコール”を思い出した方もいたのではないでしょうか?
ほかにも、神保町花月の初公演『ハッピーな片想い』の写真や『M-1グランプリ』予選の写真などの写真が流されました。
この4年間は、彼らがお笑いファンへ周知された時期。2003年の『M-1グランプリ』の予選で脚光を浴び、2004年には晴れて『M-1グランプリ2004』のファイナリストとなり、一気に注目を集めるようになりました。
「中日」は、同年のM-1ファイナルで披露したネタ。今回は当時そのままネタを披露しているため、吉田の「年末ですが」という切り出しには笑いが起こります。この漫才も、“つぶつぶ中日”“中日オレ”など奇想天外なフレーズばかりです。
続く、「服選び」も『M-1グランプリ2016』のファイナルで披露したもの。“まぐろを履くネタ”と聞けば、ピンと来る人も多いかもしれません。トップバッターだったこともあって票が思ったように伸びず、結果9位に。そのためか、このネタをその後、舞台で観る機会はあまりなかったと記憶しているのですが、改めて観ると“まだまだ観たい!”と思わせる漫才。ずぼずぼっとまぐろを履く場面は、会場大爆笑です。
「TOTTORI TO SHIMANE」も、『M-1グランプリ2007』ファイナルで披露したもの。このネタでも9位と成績こそふるいませんでしたが、面白さは健在! 手品のように島根と鳥取を操る阿部に、翻弄される吉田。“鳥取”が転がっていった先の目線が合わない場面では、どかーんと大きな笑いが響きました。
続いては、2009年から2013年という近年の漫才が。写真の2人の表情は、さらに大人びてきました。
「カラオケでは何を歌うべきか?」では、「カラオケっていうのは、誰が何を歌ったか覚えてちゃいけないんだ」という名言(?)が。最後のM-1となった『M-1グランプリ2012』の準決勝、敗者復活戦で披露した伝説のネタ「モノマネ」も、彼らにしかできない世界観。モノマネができないというマイナスをうまく利用した独特な展開力に圧倒されます。
昨年の『~60分漫才』で披露した「巨人に入りたい」では、運動不足を理由に「巨人に入りたい」と言い出す阿部が放つ突拍子もなさに、もはやただただ笑うだけの吉田。年を重ねるごとにキャラクターが崩壊し、力技で押し切ろうとする阿部、一度は乗っかりながら否定していたものの、もはや呆れて素っ気なくツッコむようになった吉田……。POISON GIRL BANDの笑いの遍歴が改めて実感できる「あの頃の漫才」でした。
15分の休憩中は、左右のビジョンに阿部のケータイフォルダに収集された写真たちが流れます。相撲、芸人、動物、おもしろ画像……、中には“なぜこんなものを?”と思うものも。ほとんどのお客さんが席を立つことなく、それらを楽しんでいました。
その後は、60分漫才に突入です。
再び出て来た吉田は、「9回も拍手していただいて、ありがとうございます」と感謝。言い合いを始める2人ですが、いなしてばかりの阿部。吉田に「なんで言い返さないの?」と言われても、ニヤニヤするだけです。
「8年ぶりの単独で」(吉田)「お互い無事でよかったですね」(阿部)「8年ぶりに会ったわけじゃないよ?」(吉田)「いやぁ、ちょーーっと照れたもんな」(阿部)というやりとりから始まった新作の60分漫才。「オレらはストーキングし合ってた」と危ない言葉を放つ阿部に、ふふんと笑う吉田が「相思相愛だよ」とふとつぶやくという印象的な幕開けです。
世間を騒がせているタイムリーなある時事ネタの“嘘”というテーマから、「8年前は『笑っていいとも!』に出ていた。しかも土曜日に」と本気の嘘で、ネタをつなげてきます。さらに、自分を“宮城県産の幻”だと称したことからの吉田の「お米みたいだね」という感想に、イチャモンを付け始める阿部。設定だけ放り込み、詳細を聞こうとするとはぐらかしますが、吉田は突然だんまりを決め込みます。
「あれ、怒ってんの?」(阿部)「だって、すっからかんじゃん!(吉田)「そうだよ。お前が肉付けしてくれるんだろ(笑)」(阿部)と、阿部はやりたい放題です。
後半、阿部がさらに暴走!
「暑いなぁ。湿っぽくなっちゃってますね」と自ら話を振りながら、ルミネを巨大サウナに仕上げてしまいます。前半はのらりくらりと喋りながら、ネタ間違いや言い間違いを繰り返し、「何年目よ?」と吉田にツッコまれていた阿部。ですが、のど乾くんじゃないかと心配するほどの大声で、饒舌にまくしたてていきます。頭をぽりぽりとかきながら「あんなに間違えてたのに……」と、少し離れたところで見守る吉田。阿部の暴走により、観客は全員、サウナ、水風呂、風呂、健康ランド、また風呂……という地獄のツアーへ誘われるのです。
どこまでが設定で、どこまでがアドリブなのか。そして、我々はどこへ連れて行かれるのか? 先の一切見えないこの漫才は最後、大きなユニットとなり、大勢を引き連れた2人が漫才するというぶっ飛んだ世界へ。
カオスな空間の渦中、観客全員が遭難しかけたところで、突然「これからも2人でやっていきますんで、よろしくお願いしますね!」とにっこりと笑う阿部。……今回、ベスト漫才ライブをやることで“解散するのでは?”と危惧していたお客さんを安心させようとの言葉だったのかもしれません。しかし、このクレイジーな60分間を共にする中で、お客さんたちは“解散はないな”と確信したはずですが、、あまりに唐突だったため、ポカーンとしてしまったのでしょう。阿部が「全然拍手が来ねぇ!」と自虐的に笑うと、ようやく我に返ったように大きな拍手が起こりました。
それほどにこの2人にしかできない、唯一無二な世界観、そして漫才を堪能できた今回のライブ。「ありがとうございました」と一礼し、袖へと去った2人のあとには、サンパチマイクが燦然と輝いていました。
次回の『~60分漫才』は、7月26日(土)同劇場にて開催決定。まだ彼らの漫才を体感したことがないという方は、ぜひとも足を運んでください。笑いの未体験ゾーンをきっと味わえるはずです!
【POISON GIRL BAND】