桂三風30周年独演会
10月31日(金)、なんばグランド花月にて「桂三風30周年独演会」が開催されました。1984年に桂三枝(現・文枝)の七番目の弟子として入門して30年、師匠の意思を継ぎ創作落語を作り続ける一方、客席と高座が一体となって噺を運ぶ「客席参加型落語」を確立、商標登録するなど幅広い活動を行ってきた三風。節目の年を祝うこの日の独演会は、その歩みを写真でさかのぼるVTRから始まりました。
舞台に現れた三風はタキシード姿! 「創作落語に憧れ、三枝に入門したのが昭和59年。『落語会に新しい風を起こせ』と"三風"の名をもらいました。それから30年間、そよ風のような状態で...」と笑わせつつ、「30年を機に旋風を起こしますので応援よろしくお願いします!」と挨拶して拍手を浴びます。
まず最初は自身が手がけた落語をサイレント映画に仕立てた「下町の理髪店」からスタート。「自分の作った落語が映画になるなんて、(落語家にとって)ひとつの夢」とその実現を喜ぶ三風。総製作費は「50万円+弁当代」だそうで、多くの落語界の仲間たちが出演、力を貸してくれたとのこと。三風が理髪店店主を演じるほか、桂文福、笑福亭福笑、桂三金などなど、豪華キャストが勢ぞろいして人情味あふれるストーリーを熱演しました。
ここで弁士の坂本頼光さんが舞台へ。
スクリーンに映し出された力士(三金)の姿に、早くも客席から爆笑が起こります。相撲部屋を飛び出し、実家の米穀店へと帰ってきたひとりの力士。父に怒られながらも引退の決意は変わらず、ヤンキー時代に力士を目指すきっかけとなった理髪店へ「断髪式」を依頼することに...。しかし、部屋の親方は力士がいなくなったと大騒ぎ、必死で捜索を続けます。はたして、個性豊かな町内の人々が集まっての断髪式は無事に執り行われるのか? 親方は、父は力士を許すのか? 坂本さんの見事な語りで人物像がさらにイキイキと輝き、観る者を魅了していました。
続いては三風の一席目。まくらでは弟子入り当時のエピソードを振り返り、「きっかけはABCの『浪花なんでも 三枝と枝雀』。当時、落研をやっててテレビに出たかった。オーディションに受かり半年間レギュラー出演しました」。最終回の打ち上げで三枝から「落語やってみいひんか?」と声をかけられ、一度は「そんな夢みたいなこと」と答えたものの、もらったサインに「夢から始まる」と書いてあったことから決断できたとのこと。後に三枝が誰にでも同じフレーズを書いていたことが発覚したというオチで笑わせましたが、30周年を記念しての会にふさわしい入門秘話に、客席の皆さんは興味津々で聞き入ります。さらに、「夢から始まる」事件の際に背中を押してくれたあるおばちゃんの話から、大阪のおばちゃんパワーが炸裂する創作落語「目指せ!ちょっと岳」へ。「帝塚山山ガール」を自称するおばちゃん集団と、ガイドを務める大学生の登山珍道中は爆笑の連続! 三風が演じ分ける"ザ・おばちゃん"キャラの数々も絶品です。
中トリには師匠の文枝が登場。「見た感じはいかついが、人情味あり涙もろい。ですから皆さんにかわいがっていただいている」と弟子へのご愛顧を感謝します。曰く「19人の弟子がいるが、これから先、私の面倒を見てくれるのは三風くんじゃないか」とのことで、「他の弟子はあまりあてにならない」と笑わせます。そんな自身の"これから"にからめ、ある医師に教えてもらった「高齢化社会で大切なものとは?」という話をまくらに、「優しい言葉」を口演。喫茶店を営む夫婦のケンカをきっかけに、夫が妻に"優しい言葉"をかけようとする顛末が描かれた噺には、熟年夫婦のあるあるが満載。中でも夫側の言い分には、客席の男性陣から共感の爆笑が何度も起こっていました。
中入り後はゲストコーナー。まずは弟弟子にあたる吉本新喜劇・中條健一とトークを展開。三風の内弟子期間が明けた頃に入門したという中條は、「師匠から『もう落語の時代じゃない』と言われ別の道を進んだのに、あの後すごい弟子とってるやん!」とぼやき、笑いを誘います。「吉本新喜劇を代表して...これでお茶でも飲んでください」とお祝いも手渡しましたが、中身は本当のお茶(ティーバッグ)!?
さらにもうひとり(?)のゲスト、新潟県新潟市西蒲区西川のゆるキャラ・かさぼんもステージへ。当地の伝統文化「傘ぼこ」をイメージしたキャラで、落語会で訪れて縁が生まれたことから今回の出演となったそう。「最近はしゃべったりするキャラもいますが、これこそがゆるキャラ! 来年は『ゆるキャラグランプリ』でぜひ、かさぼんに投票を!」と呼びかける三風でした。
ゲストはまだまだ続きます! 続いては、三風がダメ元でお願いしたところ快諾してくれたというオール阪神・巨人が漫才を披露。ちびっ子やお年寄りといったお客さんにまつわるエピソードに始まり、元気なお年寄りにまつわるネタで爆笑をさらいます。阪神得意の声帯模写も次々と炸裂し、お客さんは大喜び!
最後は再び三風が高座へ。内弟子明けのなかなか仕事がない時期に、ひょんなことから飛び込んできた司会の仕事での裏話や、天神橋筋商店街の交通ルールアナウンスをしている話などを経て、「町おこし、村おこしの落語を作るうち、若い人が都会に出て帰ってこないという地方をよく見るようになった」と三風。「そんな地方のおじいちゃん、おばあちゃんに元気になってもらえるような落語を作りました」と「農といえる日本」を披露します。年老いた父母の元へ、都会に出たきりだった息子から、嫁を連れて帰るという手紙が届くところから噺はスタート。ジェネレーションギャップのせいで書いてあることがなかなか伝わらない様子が爆笑を巻き起こします。やがて帰ってきた息子夫婦は農業に従事することになりますが、その狙いが父母にはちんぷんかんぷんで...!? 過疎化が進む一方の農村地帯に新たな希望が生まれる顛末は、心がポッとあたたかくなる笑いと情にあふれていました。
緞帳が再び開いてのエンディング、三風は「まだまだ師匠の作品には及びませんが、だんだん自分らしい作品が出来上がるようになってきました」とキッパリ。「これからもいろんな社会のテーマを落語にしていきたい」と意気込み、「大いに頑張っていきますので、応援してくださいませ」と頭を下げました。
もちろん客席からは万雷の拍手! 花束やプレゼントを渡そうと多くの人が舞台へ駆け寄り、三風の30周年を祝福していました。
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