第7回よしもとクリエイティブフォーラム(ゲスト講師:菊池武夫さん)
2月9日(土)、吉本興業東京本部にて、デザイナーの菊池武夫さんをゲスト講師に迎えた『第7回よしもとクリエイティブフォーラム』が行われました。
『よしもとクリエイティブフォーラム』は、スタッフ&クリエイター養成所「よしもとクリエイティブカレッジ(YCC)」が2013年度4月から始めたカリキュラム(通年)で、島武実氏を主幹講師に、各界の一流クリエイターを月替わりゲスト講師として迎えており、これまでにエッセイスト・小説家の石田千さん、建築家の荒木信雄さんらが登壇。
今回のゲスト講師・菊池武夫さんも、YCCと芸人&タレント養成所「吉本総合芸能学院(NSC)」の在校生及び見学者を前に、『TAKEO KIKUCHI』などで世界的に知られる大御所デザイナーならではの含蓄ある授業を展開しました。
授業は、YCC事務局スタッフの広瀬郁哉の進行により、受講生が質問し、菊池武夫さんが答える形式で進行されます。
最初の質問は「先生は多趣味で、いろんなことを経験されてそれをお仕事にされてますが、私も好きなことを仕事にしたくて、このYCCに入学しました。自分が好きなことを仕事にした方がいいですか?」という、エンタテインメント業界を目指す者にとって、普遍的とも言える悩みについて。
菊池さんは、「デザイナーになったのは、好きでなったというよりも、得意だったからというのも少しある」として、絵を描くために入ったものの、あまり勉強しなかったという大学時代について振り返ります。そして、百貨店に出す洋服をデザインしたことで、「これが仕事になれるのならなれるのかなっていう、ボヤーって何となく先が見えた。人と違うような考え方も出来るのかなと、自分独自の形が表現できるような」といった確信からデザイナーの道へ進んだとのこと。
やはり洋服、ファッション系の質問が集中し、「相方が女性で、奇抜というか人と違うファッションをやりたがるんですけど、個性的なファッションとヘンなファッションの境界線はどこですか?」という男性のNSC生の質問に、「難しいね」としながらも、文明開化や敗戦といった日本の歴史を踏まえて丁寧に説明する菊池さん。
さらに、漫才師の衣装について、かつては「すごい目立つ洋服着てたじゃないですか。ギラギラしてたり、ものすごい色のスーツを着てたり」とド派手だったのが、最近では「芸人でかっこいい方、結構多いよね。俳優の方よりも野暮ったくないし、ファッションで言うとわかっててオシャレしてる」と称えます。しかし、「かっこいいことが(お笑い芸人にとって)はたしていいのかどうか、わからない。イコールなんですか?」とNSC生に質問する一幕も。
また、その質問した男性は「かっちりしすぎないジャケットスタイルで、世に出ていきたい」とプランを語りますが、「やめた方がいいかなあ(笑)」と菊池さんに笑われます。
見た目がシュッとしていて、そのせいで笑ってもらえないと嘆くNSC生には、「逆向けばいいんじゃない? かっこ悪く見えるように、でもかっこいいっていうね。そこまで洋服のことまで考えてみたら面白いかも」、さらには「楽器持った方がいい」といった意外性のあるアドバイスも!
ものづくりに関する質問では、「才能があるから出来るものなのか、才能がなくても毎日、続けることによって、いいものが出来るのか…」と訊かれ、「才能があるかないかって、自分でもわからないじゃないですか。でも、やりながら自分が才能あると信じることは出来ますよね」「自分がやってることを他と比較しながら、自分しか出来ないようなものと感じられれば、それは才能を見つけたみたいなところがあるんじゃないかな」と返答。菊池さん自身については、「信じてはいますよ。自分が才能あるというのは」と言い切ります。
また、自分のやりたいことと求められているものとのギャップについて、反応がその場で返ってくるお笑いの世界は未知としながらも、「自分が信じてるものは、捨てなきゃいいんだよね」「相手の言うことのなかに、自分のやろうとしてることと何か共通観を見つけるという方法は、仕事の根底なのかも」と仕事観を伝授。
この話題を振られた島武実さんも同意し、「相手のニーズに合わせて自分を変えていくんだったら、自分のバックボーンがなくなり、自分ではなくなってってしまう。相手をうまい形で説得していく、わかってもらえる努力が必要」と、重みのある発言が出ました。
さらに、まだ100%の出来栄えじゃないのに、タイムリミットがあり、世に出さなければないことについては、「100%なんてない。100%がないからやってられるのがあると思うんですけど、いつも何か欠点を見つける癖が出てしまう」と、一流クリエイターの意外な素顔を垣間見せます。
着想や感性といったクリエイティブに関する質問も多くあり、自分の目を養うため、極力歩くという菊池さん。「車も好きなんですけど、会社に行く時も歩くし、45%くらいは歩きます。その時に触れるなかに、いろんなものがあるわけですよ。いいものもあればそうじゃないものも。そうやって体で覚える」「画像で観たり知識として入ったとしても実感がないから、情報としては入ってるけど、ホントに言うと向き合ってない」と、実体験の重要性を訴えかけます。
その一方で、本や映画、絵などを見て感じることは、クリエイションする上で重要だとし、美術館の学芸員話を例に、「みんな同じものの見方しなきゃいけないわけじゃない」「自分が感じてる時が大事」と感性の極意に言及。
また、「僕らの仕事っていろんなところに適応するようなものを作りたいと思ってるから、遊びって重要なファクターだったんですよ」と、“遊び”の重要性も熱く語り、かつては朝まで飲み歩き、いろんな人に出会い、人間観察もしていたそうです。
授業も終盤に入り、これからやりたいことをについて質問されると、「やれてなかったことかな」と菊池さん。
例えば、車のデザインがやりたくてもやれなかったらしく、「ちゃんと生産して人に乗って欲しい」そうで、さらに「作家にもなりたいと思ったことがあるので、小説もちゃんとしたやつを書きたい」と、今年75歳とは思えぬバイタリティを見せます。
最後に、受講生の共通項である“お笑い”について訊かれると、「継続することがものすごく大事」「でも成功してないと、継続できないんだよね」「大変なんだけど、ある面で言うと恵まれてるのかなと思うの。あれだけテレビがあって、発表する場がある」と、現状をしっかり把握している様子。
菊池さんは、「今ここにいる人たちの中で、何人かは残って欲しい。ガッチリ自分のものをつかまえて、仕事でキチンとしたものを作って欲しいなと思います。がんばってください」と受講生にエールを送り、拍手のなか教室をあとにしました。
なお、現在YCCでは、本年4月入学の第8期生、第4次募集を受付中。
詳細は、公式サイト(http://ycc-yoshimoto.laff.jp/)でご確認ください。