大谷健太単独ライブ「60分フリップ」
8月27日(火)、東京・ヨシモト∞ホールにて『大谷健太単独ライブ「60分フリップ」』が開催されました。
ピン芸人・大谷健太によるソロライブ。今年2月に開催された1回目の「60分フリップ」はただただフリップをめくり続けるという内容ながらも、ゆにばーす・川瀬曰く「余韻の浸れるライブ。あまりにも良過ぎて、お客さんもなかなか帰らへんし、見学の芸人も帰らない。大谷さんが気まずい顔しながら“ごめん。皆におごってあげられないけど(観に来てくれて)ありがとう”と言って、ようやく皆帰るくらい、すごくいい単独やった」とか。
大好評だったということもあってか、今回も見学の芸人が多く見守る中、ライブはスタートしました。
「雨が結構降ってたって聞きました。すみません、来ていただいて」となぜか何度も謝る大谷。「2月にやったライブに来てくれたお客さんに、“コンタクトを付け忘れてしまって、1時間、拷問のようだった”と言われた」と自虐的に語り、「見えますか?」とフリップを使った視力検査を実行。が、文字の大きさは変わりません。「方向を知っているかの確認です」と静かにつぶやきながら、大谷は「早速スタートです」と幕を開きました。
最初のお話『つめた~い』は、ある工事現場で働く男性の視点から観た自動販売機の「つめた~い」を。いろんなバリエーションに変化しつつ、段々と「つめた~い」からかけ離れていきます。そんな様子を延々とツッコミ続ける男性。思わぬオチに、ホッとした笑いと拍手が起こります。
続いてのお話は、『サイン』。ラーメン屋の取材に向かった人物が出会ったのは、壁に飾られたサインの数々。いろんなシチュエーションでのありがちな物言いを時に諭しながら、時に毒づきながら発表していきました。
『漢字同窓会』では、タイトルの通り、漢字の同窓会を漢字の形状を用いて、変化を加えながら表現。
シュールなタイトルが付けられた『動物部位屋さん』は、ストーリーの内容もかなりシュールな展開。生身では表現しきれないあり得ない設定や瞬発的な面白さが、イラストによって鮮明に映し出されます。
少し長めのお話『コロのめぐるいのち』は、大谷自身が椅子に腰掛けての紙芝居風な見せ方を。愛犬をめぐる温かくもしんみりするストーリー。大谷の落ち着いた語り口も相まって、お笑いライブとは思えぬ静寂が流れ……。が、まさかのオチに会場爆笑です!
「しんみりしてしまって、すみません。気を取り直して、明るい話をしましょう!」と始まったのは、下ネタフリップ。言いにくい言葉が、全く違うものとして生まれ変わったら……という設定のもと、いろんなシチュエーションでのそれが発表されます。
『徐徐野と徐徐村』は、男性2人の物語。“徐徐”という言葉が入っている通り、徐々にさまざまな変化を遂げていく2人。特に、徐徐村の変化は“徐々に”ではなく……こんな笑いを体現できるのは、まさにフリップならでは。イラストの妙を生かした、大谷のセンスが光ります。
『家族クオリティ維持お絵描き』は、地元で暮らすお姉さん、姪のみーちゃん、お母さんの順に、元の絵を観て30秒以内に描いてもらったというイラストを披露するというもの。絵の上手なお姉さんはなんでもきっちり描けるのに対して、みーちゃんは子どもらしくも割としっかりしたダイナミックな絵を。お母さんのイラストは、かなりの崩れっぷりでした。
全てを一人でこなしていくこのイベント。後ろに用意された大量のフリップも、自分で変えていくため、その間を「休み時間」と称し、国民的人気アニメのあるキャラクターを探すコーナーに。さまざまなところに隠れている、そのキャラクター。大谷がフリップをめくるたびに、クスクスと笑いが起こりました。
最後は「未来に残したい大谷健太作品集」を披露。大谷による一言のあとに、めくられるイラスト……まるで一人大喜利です。その内容も多用で、「そう来たか!」と思わず唸ってしまうような発想の転換が見られました。
「これで、おしまいです。遅い時間まで、ありがとうございました」と深々と頭を下げた大谷。直筆イラストによる映像が流れ、暗転が開けると、お客様はひと呼吸置いて立ち上がり、会場をあとにします。
感動あり、笑いあり、毒あり……フリップによる無限の表現を、静かに、それでいてしっかりと言葉をのせながら1枚1枚めくって世界を構築していく大谷。落ち着いた笑い声が響く会場は、普段のお笑いライブと異なる空間に――。独特な見せ方に思わず前のめりになってしまうほど、グッと引き込まれた単独ライブでした。
【大谷健太】