11月16日、なんばTOHOシネマズにて、映画『ベイブルース ~25歳と364日~』のティーチインが行われ、高山トモヒロ監督と元毎日放送プロデューサーの影山貴彦同志社女子大学教授が登壇しました。ティーチインとは、映画をご覧になったお客様からいただいたご感想やご質問を通じて繰り広げるトークショーで、この日も影山さんと高山の映画撮影秘話やベイブルースの思い出に始まり、お客様からもご感想をいただきました。
1994年10月31日、人気絶頂期に急逝したベイブルース・河本栄得。映画『ベイブルース ~25歳と364日~』は、相方の高山トモヒロが執筆した同タイトル小説を自らメガホンをとって映画化。高校時代の出会いから、NSC7期生入学、そして芸人として舞台に立ち...と、漫才に青春をささげた若者たちの物語で、現在、TOHOシネマズなんばをはじめ、全国の映画館で上映中です。
TOHOシネマズなんばで行われたティーチインでは、当時からベイブルースをよく知る影山さんとのトークで、知られざる河本の一面なども楽しめました。
影山さんは元毎日放送プロデューサーで、映画にも"ラジオ局のプロデューサー"という役で出演しています。まずは、影山さんがベイブルースの二人と出会った時のことを振り返りました。ラジオ番組『ヤンタン遊びのWA!』のパーソナリティーにベイブルースが決まり、挨拶に来た日のことを今でもよく覚えていると影山さん。「礼儀正しい二人でしたね。毎日放送のレコード室で作業をしていると、ご挨拶に見えて、かぶっていた野球帽をパッと取って『ベイブルースです! よろしくお願いします!』と言って、その時に一目ぼれしました。この二人と番組をやれてうれしいなと思いました。それが第一印象でした」。そんな影山さんの回想に「我々の作戦通り」とにやりと笑う高山。
劇中でも流れるベイブルースの『夫婦きどり』は、「シャ乱Qに負けるな! ベイブルース『夫婦きどり』や!」というシーンもあり、ベイブルースを語る上でも重要な楽曲です。当時、『ヤンタン』の別の曜日をバンドのシャ乱Qが担当しており、双方とも大人気。『夫婦きどり』と同時期にシャ乱Qも『シングルベッド』をリリースし、影山さんが担当していたリクエスト番組には、この2曲しかリクエストが来なかったそうです。「だから番組では、トップ10のランキングを作っていました。ごめんなさい!」と衝撃の告白をした影山さん。高山もうすうす勘付いていたようで、「おかしいと思ってたんですよ。4位とかに演歌歌手が入ってたから~」と納得した様子でした。なお、劇中では、シャ乱Qの楽曲は『上京物語』が使われているのですが、高山が「......(選曲を)間違ったな」とポツリ。詳しく聞けば『夫婦きどり』と『上京物語』の詞の世界観を重ね合わせたとのことでした。
続いて盛り上がったのが、撮影におけるうっかりミス。これは作品をご覧になると分かるのですが、いろいろと時代が間違っているそうです。例えば、高山が子どもの頃にマヨネーズを使うシーンがあるのですが、ふたをパチンを開けるマヨネーズが使われています。が、当時のマヨネーズのふたは回して開け閉めするもので、時代が違うと指摘があったとか。また、ポスターの前で「これから俺ら、ベイブルースや!」という重要なシーンがありますが、そのポスターが5upよしもとのもので、プリマ旦那やコマンダンテの名前が映っているとか。「ポスターが貼ってあったのは知っていたけど、撮影中は小さいモニターで確認していたので、字まで見えなかったんですよ。試写会で観たら、思いっきり入ってて、ここもまた時代がおかしいことになってました」と高山、お客様の中にも気づかれた方がいらっしゃいました。
さらに、映画をご覧になった方からは、オール巨人の登場シーンの感想で「違和感がある」と言われることが多いとか。「巨人師匠がNSCの講義で出るシーンで若い人に言われます。20年以上前のシーンなのに、なんで今の巨人師匠が出ているのか、時間軸がおかしいと。20年前の巨人師匠はちょっとおかっぱだったんですよね。でも、おかっぱのカツラをして、若いメイクをするというのも違和感あったので、そのままで出てもらいました。そこは僕のこだわりです。今の巨人師匠しかあかんねん」(高山)。
そんなオール巨人は、舞台挨拶にも積極的に参加したそうで、そのことを嬉しそうに話す高山。当初は京都国際映画祭でのプレミアム上映のみの登壇でしたが、その後、東京、大阪の舞台挨拶にも出席。「今日も巨人師匠となんばグランド花月の出番が一緒で、"今からティーチインがTOHOシネマズなんばであるんです"と言ったら、"そうか~。でも俺、出番やしな..."って言ってました(笑)。それだけベイブルースに思いを込めてくれているのが嬉しかったですね」。
高山の父親と高校生の高山が登場するシーンでは、特別な思いがあったと高山。「昔、焼き芋屋とか、廃品回収をしているお父さんが、野球の練習に見に来る時、僕のお父さんだけ軽トラに乗ってドロドロの格好をしてくるんですよ。それが正直恥ずかしかったんです。他のお父さんはカッコいいのに。特に中学、高校生のと時がそうで、"来なくていいのに!"と思っていました。でも、今、映画を作って父親が出てくるシーンを撮った時、考えたら父親は当時40代半ばで、今の僕と同じ年齢なんですね。僕は今でも、おいしいものも食べたいし、いい服を着たいと思っているのに、お父さんはそういう欲を全部捨てはったんやと思って。今になって、ああ、親はすごいなと思いました」と当時を振り返り、胸中を語りました。
波岡さんと趙さんが河川敷で稽古をしているシーンは、「色合いもとてもきれいでよかった!」と影山さんも絶賛。雨の中を相合傘で稽古するシーンも印象的だったそうです。「たまたま雨が降ったんですよ、あの時。神様が降りてきましたね」と実は偶然だったことを明かす高山。そのミラクルには、影山さんも驚いていました。
12日間で撮影を終えなければならず、雨を待っている暇はなく、まさに恵みの雨。ですが、喜びもつかの間、現場では時間制限のある中、撮りこぼしなく進めることに一心だったのですが...。「撮りこぼしが1つあったんですよ。みんな気づいていないと思うけど、最後に高山がもう一つの人生を振り返るシーンで、高山役の波岡が自分のアパートで横になってテレビを見ているんですけど、頭にタオルを巻いているんです。あれ、本当は坊主なんですよ」と高山。撮影の最後に高校時代の河本と高山を撮るというスケジュールだったため、気が付いたときにはすでに波岡さんは坊主姿になっていました。「"どうすんねん! カツラ用意せぇ!"って言ってたら、メイクさんも慌てて、ほとちゃん(雨上がり決死隊・蛍原)みたいなカツラを持って来たんですよ(笑)。それでタオルを巻いて...」と、てんやわんやになった現場の様子を臨場感たっぷりに語ってくれました。
映画『ベイブルース ~25歳と364日~』で多くの話題に上がったのが、漫才のシーン。「役者二人が漫才をするので、最初は芝居しすぎやねんっていう漫才だったんですけど、日を追うごとにめっちゃうまくなっていきましたね。そんで波岡が、"高山山監督、気づいたんですよ。当時のベイブルースの漫才って客をほったらかしにして走って、客が勝手についてくる漫才なんですよ! それにやっと気づきました!"って言ってきたので、"お、おう、ようやく気付いたな"って返したんですけど、僕は当時から、そのことに全然、気づきませんでしたわ」と苦笑い。
影山さんもベイブルースの漫才をよく知るお一人。「ベイブルースは客にこびない漫才でしたね。今は、みんなが分かりやすいようにという方向性のメディアが多いですが、だからこそ、ベイブルースは余計にかっこよく見えました」とリアルタイムで観られたご感想を語りました。
作中、河本が高山にダメ出しをするシーンが多く見受けられますが、ラジオ番組『ヤンタン遊びのWA!』の放送中でも同じようなことが起こっていたと影山さん。曲をオンエアしている間やCM中は、河本が高山に「さっきのあれな...」と身振り手振りで詳細に伝える姿を何度も目にされたそうです。漫才をはじめ、芸事に厳しかったそんな河本ですが、高山だけが知る一面もあったようです。
「当時、河本は売れたいと思っていたんですけど、お金がついてきてないから、苛々してたんですよね。それを相方にしか当たれないから、よく僕に当たっていました。優しい時はお金を貸してほしい時だけでしたね(笑)。"今日、河川敷の稽古めっちゃ優しいやん、俺のこと、高ちゃんって言うし..."と思ってたら、その理由が帰りに判明するんですよ。二人きりの河川敷で俺に抱きついてきたりして。ほんで"なんぼ貸してほしいねん"って聞いたら、ジェスチャーも入れて"1万かな? 2万かな? 3万貸して!!"とか言ってました。そんなことも含めてめちゃくちゃいい思い出です」。
と、ここでティーチインらしく、お客様からのご感想を募りました。同志社女子大学で影山さんの授業を受けられている方から、「映画が公開される前から先生は授業で「華のある人」というテーマでベイブルースの話をされていました。2年前からそのお話を伺っていたので、今日は映画を観れてうれしかったです」というご感想を受けた高山、「2年前からプロモーションをありがとうございます!」と影山さんに伝えていました。
また、会場にはコメンテーターの中西正男さんの姿もあり、中西さんからも質問を受け付けたところ、「影山さん役は、他に候補が誰かいたんですか?」とのこと。そして高山が返した答えに、会場からはざわめきが。実は、京本正樹さんが候補に上がったいたそうです。「最初に影山さんの役を"やってもええよ"と言ってくれたのが京本正樹さんだったんです。でもさすがに京本さんは男前すぎるし、スケジュールもあるしで、それは...とお返事したら、"じゃあ、高山くんのお父さんの役でもいいよ"と。でも、おかしいでしょ。焼き芋屋の親父で、廃品回収してる親父ですよ。あんなメイクバッチリのお父さんて(笑)。でも、そうやって言ってもらえたのは嬉しかったですね。京本さんに"どんなにちょっとの役でもいいよ"と言ってもらえたのは、すごく嬉しかったです」。そんな撮影秘話に影山さんは、「俺の役、京本正樹さんやったんかー!」と驚きを隠せない様子でした。
そして、ティーチインも終了へ。最後は影山さん、高山からご挨拶がありました。
「この中にも何回もご覧になった方がいると思いますが、いっぱい観てほしいし、観れば観るほど心にグッと来るものが増しているように思います。そんなすばらしい作品を高山くんは作ってくれたと思います。日本の映画史に残る作品を皆さんに提供してくれたと思っています。これからもご贔屓によろしくお願いします!」(影山)
「舞台挨拶では、"ちゃんとしゃべらないと"とは思ってないんですね。真面目に話をしたら河本にカッコ悪いというか、"芸人やから、楽しい気分でしゃべれや"って言われているような気がして。だから、映画のトーンとは違うしゃべり方をしていますが、これは芸人なのでそうやってます。それと、ファンの方に申しわけないなと思うのは、当時、お葬式はもっと派手だったし、何千人も集まって交通規制が出るほどだったのですが、それをそのまま描いても、"このおっちゃん、若い頃、すごかってんでってカッコつけてる"と言われるのが一番嫌だなと思って、映画という作品ということで、この形にしました。今、ベイブルースを知らない人が多いので、知らない人の心に引っかかって、"一人の命は失ったけど、なんか頑張れるやん、私たち"と思える映画は何かなと思ったら、こういう作り方になりました。当時のことをものすごく詳しく知っている方からすると物足りないと思われるでしょうが、映画監督は初めてでしたけど、そういう面ではプロとして作らせてもらいましたので、お許しください。映画は1週間、2週間で打ち切りになることもありますが、3週間目に入っています。大阪、東京はまだまだ続くのではないかと言われてます。みなさんに感謝です。特に、なんばではロングランしたいと思っています。ベイブルースのおひざ元なので、どうか宣伝をよろしくお願いします!」(高山)
映画『ベイブルース ~25歳と364日~』はTOHOシネマズなんば他、全国の映画館で上映中です。TOHOシネマズなんばでは芸人たちの姿も見受けられるとかで、「なんばのTOHOシネマズに来たら誰かしら芸人がいるという、ちょっとした風物詩になっています。東京も新宿の映画館に行ったら、誰か観に来ていると聞きました」(高山)と、芸人も必見の作品となっています。まだご覧になっていない方はぜひ、スクリーンでお楽しみください! そして2度、3度とご覧になっている方は、高山のこだわりはもちろん、うっかりミスなど、"小ネタ"もぜひお探しくださいね!
『ベイブルース~25歳と364日~』
監督:高山トモヒロ
出演:波岡一喜、趙珉和、小川菜摘、安田美沙子、オール巨人(オール阪神・巨人)、石田えりほか
配給:よしもとクリエイティブ・エージェンシー
【高山トモヒロ】