10月31日(金)、『ベイブルース~25歳と365日~』が全国公開されました。10月31日(金)は、ベイブルース・河本栄得さんの命日。20年前、脳出血で急逝した河本さんと高山トモヒロが、ベイブルースとして駆けぬけた日々がスクリーンでよみがえります。
公開初日舞台挨拶が行われたTOHOシネマズなんばには多くのお客さんが。なかには心斎橋筋2丁目劇場に足を運んでいたという往年のファンの方も姿もありました。
大上邦博が司会を務めるなか、舞台挨拶がスタート。映画を見終った直後ということもあり、客席からはハンカチで涙をぬぐい、鼻をすする人の姿も...。思わず大上も「皆さん、目がパンパンですけど大丈夫ですか?」と声をかけるひと幕も。
そんななか、出演の波岡一喜さん、趙珉和さん、石田えりさん、オール巨人、かつみ❤、そして高山監督がスクリーンの前に。それぞれに映画への思いや河本さんとの思い出を語りました。
まず高山を演じた波岡さんが挨拶を。「本日は平日なのにこんなにたくさん来ていただいて、ありがとうございます。20年前の10月31日に河本さんが亡くなり、20年後の今日、映画を見ていただきました。大阪で、この地で舞台挨拶ができることを大変うれしく思っています」。
続いて河本さんを演じた趙さんも「平日にこんなにたくさん集まっていただいてありがとうございます」と続きます。河本さんの母役を演じた石田さんが挨拶したあと、オール巨人が「平日にこんなにたくさんの方に集まっていただいて...もうええっちゅうねん!」と3連続の同じ挨拶にお客さんからも笑いが。改めて「空気を変えてすいません(笑)。しんみりした映画ですが、本当はみんな楽しい奴で、仲間意識がこういう映画を作らせたんだと思います。このあともいろいろ喋ります!」と挨拶。
かつみ❤も映画で本人役を。「こうして映画になって本になって、河本くんもめっちゃ喜んでいると思います」と河本さんの思いを代弁。高山監督は「挨拶の前に、ひとつだけ謝らせてもらいます」と神妙な表情。「映画の中で、かつみ❤兄さんのシーン、スベッてすいませんでした」となんと謝罪! これには思わずかつみ❤も「いやいや! あれ、僕5分出演してて、3分半カットしてるやん! 僕、1分半しか出てないやん!」と訴えると、「スタッフと『このシーン、いる?』ってなって、ちょっと...」とモゴモゴ。気を取り直して、「涙はあったと思いますが、河本は皆さんに笑っていただくのがすごくうれしいはずです。だから、今からの舞台挨拶は楽しくやらせていただきます」と挨拶し、お客さんから拍手が起こりました。
この日、全国公開初日を迎えたのを「正直、長かった! というのが感想です」と高山監督。「去年の6月にクランクインして6月末に撮り終えたので、それから1年以上。河本は『まだか、まだか』と言っていたと思います。無事に公開日を迎えることができて、しかも今日があいつの20回目の命日で。なにか意味するものがあるのかな」と感慨深げ。
波岡さんと趙さんが、映画の出演オファーがあったときの率直な感想を語るシーンも。「ベイブルースは僕たちが学生時代にテレビで見ていたコンビ。(河本さんが)亡くなられたことも知っていたので、光栄な気持ちとプレッシャーと両方ありました」と波岡さん。大上に「(ベイブルースの)ファンでしたか?」と聞かれて「はい」と即答した趙さんでしたが、高山から「気持ちが入ってないやん!」とツッコまれるひと幕も。「ほんまに、ベイブルースさん、千原兄弟さん、メッセンジャーさんが好きでよく見てました!」とファンであったことを念押しする趙さんでした。「当時から考えたら、まさか僕が河本さんの役をやるとは思ってないわけで、すごい巡りあわせだと光栄でしたし、『汚さないように』と思いましたね」とも。
また、石田さんは「映画を最初に見た人が、『このシーンがおもしろいよ』と言ってたので、楽しみにして見ていたのに、カットされていたんです」と暴露。そのシーンとは、ベイブルースが初めて賞を獲り、喜んでいるところに高山の母親(小川菜摘)と河本さんの母親(石田えりさん)が居合わせるというシーン。高山は、「あのシーンは、あまりにもおもしろすぎて。今から泣く映画やのにこれはさすがに...と思って。だから、あのシーンはDVDになったときに特典映像として付けようと思ってるんです。そこまで考えているんですよ、僕は!」と先を見据えた戦略であることを打ち明けました。
2人の母親は、この物語のなかで大きなカギになる存在。石田さんに、どんな思いで演じていたかを尋ねると「趙さん本人が、いかにも長く生きそうにない顔なので(笑)。演技しようと意識していなくても、顔を見るだけでウルウルきちゃうんです。縁起でもなくてすいません」と語り、出演者は爆笑。かつみ❤が「大丈夫ですよ、楽屋で趙くんはシュークリームをすごく食べていましたから」とフォローしましたが、「その情報、なんなんですか!」と回りから総ツッコミされていました。
オール巨人は、ベイブルースの思い出を語りました。「本当にいい漫才師でした。真面目でテンポもよかったし、研究熱心で...。映画そのままの2人でしたね。当時はTHE MANZAIとかなかったけど、あったら優勝していたかもしれません。それぐらいうまかった」と語りました。大上も、当時はハリガネロックとしてベイブルースの背中を見続けていた後輩のひとり。「稽古のシーンとか、本当にいろいろ思い出します。僕の昔の相方(ユウキロック)も厳しかったんで...」と共感していたようでした。
かつみ❤も生前の河本さんを語りました。「NGKでよく出番が一緒になりました。1回目公演と2回目公演の間、4時間の休憩があるんですけど、その間、ずっと河本が高山にダメ出ししてましたね」と当時の様子を明かします。「あのときのベイブルースは本当に注目されていた。ギャグもモノマネも歌ネタもほとんどやらない正統派漫才で、若い子から年配の方までどーんとウケてたね。僕も当時はどんきほ~てというコンビを組んでいて、どんきほ~てとベイブルースあたりが中堅漫才師としてどんどん出ていくんちゃうかなと言われていました。ベイブルースがそのまま行ってたら、本当に天下を取れていたと思う」と言うと、当時のことを間近で見てきた大上も「今のお笑いの歴史がちょっと変わっていたかもしれませんよね」と納得していました。
高山監督は、映画のなかで河本さんに「精密機械になれ」言われるシーンをふり返り、厳しかったベイブルース時代に思いを馳せました。「河本のファンの方には申し訳ないですけど、がまん、がまんの連続でした。でも、がまんしてコイツの言うことを聞いていたら絶対に売れると思ってついて行きました」と当時の心境を吐露。大上が「でも、腹が立つこともあったのでは?」と水を向けると「そうですね。『昨日と言ってることが違うやないか!』と思うこともありました。だけど、そこを合わせたら仕事が入るんや、と思っていました。子供もいましたし、生活せなあかん、という思いもあって」と今だから話せる思い出話も。
劇中では、波岡さんと趙さんがベイブルースの漫才を見事に再現するシーンも見どころのひとつ。巨人は「そうとう漫才の練習をやったんですよね。自分で漫才をやっている間に、『これでいいのか?』と、息と間(ま)にすごく悩んだと聞いています。映画の中の彼ら、すごくいい漫才でした」と絶賛。さらには「去年のTHE MANZAIのレイザーラモンより全然上です」と名指しで! 会場が笑いに包まれるなか、「だから、『THE MANZAIに出たらどうや』と言ってるんです。今出て、『映画に出てるねん』って言ったら映画も見に来てもらえるし!」、「出ろ、出ろ」と回りから勧められた波岡さんは、「出ます(笑)」と宣言していましたが、はたして...?
波岡さんは漫才の稽古をふり返り、「漫才師さんの映画で、漫才がおもしろくないってどうしようもないじゃないですか。『海猿』で泳がれへん、みたいなことになるじゃないですか。だから、『絶対に、一番ちゃんとしないとあかん』と。しかもネタが5つ6つあったので、めちゃめちゃ練習しました。さっき、巨人師匠が言っていたように、やればやるほど分からなくなる。2人で袖で練習してても、『これ、ほんまにおもしろいのかな?』って」と稽古の苦労を明かし、これには大上も「わかるわ~」と共感。
「いろいろお話も聞いて、河本さんにはすごくシンパシーを感じました」と語ったのは趙さん。「映画を撮っている最中も、今でも、すごく正直に生きた人やったんやろうなと思います」と河本さんの生きざまに寄り添います。石田さんも「ひとつのことに情熱とすべてを注いで、燃え尽きたというイメージですね」と河本さんの印象を語りました。
続いては、河本さんへ芸人仲間からメッセージ。FUJIWARA、千原ジュニア、星田英利、桂三度、ほんこん、それぞれが河本さん、ベイブルースとの思い出を語る姿がスクリーンに映し出されました。それを見た高山監督は「素直にうれしいです。20年経った今でも河本のことを考えてくれてる。そして、残された僕のことも考えてくれてる。本当に僕、すばらしいところで芸をしていると感じました」としみじみ。波岡さんは、「これだけベイブルースを尊敬している後輩の方たち、先輩の方たちがいる。そんな2人を演じさせていただいたというのを、改めて光栄に思っています」と感激していました。
最後の挨拶で、オール巨人は「この映画で漫才師の苦労や、一生懸命やってる姿を見ていただきたいです。人生これから生きていくときに、こういう考えで生きていかなあかん。そういう指針になる映画やと思います。今日はいい命日になったと思います」と話しました。さらに「あともうひとつ聞いて! 僕、映画の中でなんか『厳しい』とか『怖い』とかになっていますけど、優しいです」と、京都国際映画祭の舞台挨拶に続いてまたまたアピール。自身の"優しい"エピソードを披露していました。
波岡さんも最後の挨拶を。「去年の6月に撮影して、撮影の最終日にあと数シーンというところで雨が降り撮影が中断したことがありました。そのとき、天国の河本さんが『もうちょっと撮影やろうや。もっと楽しもうや』と言っているような気がしました。今日公開して、今日からまた新たなスタートを切りました。ここを出てもし雨が降っていたり、今夜雨が降ったら、河本さんが『公開おめでとう』と言っているように僕は感じます。皆さんも雨を感じてください。本日はありがとうございました」と語りました。趙さんは「ようやくこの日を迎えることができて感慨深いです。皆さん、友達を連れてもう一度見に来てくれたらうれしいです」とPR。
かつみ❤は「河本は才能があって、笑いも取って、褒められるのもすごく喜んだ人間でした。今日、あの当時に2丁目劇場に見に来ていた方もいてると思いますが、おそらく河本自身も今ここで見てると思います。『あ、あの人来てくれてる!』と思ってくれていると思います。河本もうれしいと思います。ベイブルースのこの映画に、人をどんどん呼んであげてください」と語りました。
そして高山監督も最後の挨拶を。「この映画を、大阪だけで済ますとは考えていません。全国ですごく話題になることを祈っています。目立ちたがり屋で調子乗りの河本は喜ぶと思いますし、話題になるのを望んでいると思います。今日は31日で、おそらく霊界からお許しを得てこの会場に来ていると思います。その河本に向けて。『ベイブルースは伝説や』とかいろいろ言ってもらっているけど、それはお前の力じゃない。僕の力でもない。お客さんが盛り上げてくれているから、『伝説』と言ってもらえるんやぞ、と説教したいです。帰りに出入り口で、お客さんひとりひとりに河本栄得、お前から頭を下げろ、と。40代半ばの僕から、20代半ばのクソガキに言ってあげたいと思います。ありがとうございました」。高山のこの挨拶に、お客さんからひときわ大きな拍手が贈られました。
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