矢野・兵動の兵動大樹が、たった一人で舞台に立ち、日常の中で見聞きした"おもろい話"をひたすらしゃべりまくるというソロトークライブ『兵動大樹のおしゃべり大好き。』。2003年のスタート以来、多くのファンから好評を博しているこの大人気イベントが、2014年の暮れ、ついに東京・明治座に進出します。実力派漫才師として高い評価を集める一方、テレビ番組『人志松本のすべらない話』の常連メンバーとしても知られるフリートークの達人が語る、"一人しゃべり"の極意とは――?
――今回の『おしゃべり大好き。』の明治座公演は、どのような経緯で決まったのでしょうか。
「12月24日と25日の昼に、吉本興業の公演がありまして(『東京グランド花月』)、吉本のスタッフから『24日の夜が空いてるから、やってみいひんか』と声をかけてもらったんですね。こんな大きな舞台で一人しゃべりができるなんて、まさに夢のようなお話で、それはぜひやりたいです、ということで。これまで『おしゃべり大好き。』は地味に頑張って続けてきたんで、会社からのクリスマスプレゼントかなと思って、すごく嬉しかったんですけど...冷静に考えたら、12月24日の夜なんて、見に来てくれる人おるんかな、と(笑)。みんな、別の予定入ってるやろと。ちょっと今、焦ってるんですけども。でもね、正直言うと、集客はあんまり気にしてないんです。とにかく内容はクオリティーの高いものにして、来てくれるお客さんが満足できるものをお見せしようと。笑って過ごせる最高のクリスマスイブをお届けしたいなと思ってます」
――明治座の大舞台ということで、何かスペシャルな仕掛けは考えてらっしゃいますか?
「いや、まったくいつも通りですね。いつもと違うスペシャルなことって言うたら、サブタイトルが付くぐらい。明治座といえば、演歌の大御所の方々がリサイタルをされている素晴らしい舞台なので、僕も今回『北島三郎 大いに歌う』みたいなイメージで、『大いにしゃべる』っていうサブタイトルを付けたんですよ、北島三郎さんへのリスペクトの思いを込めて」
――そもそも、この『おしゃべり大好き。』というライブはどのような経緯で始まったのでしょうか。
「『R-1ぐらんぷり』っていうピン芸のコンテストが始まるとき、その前哨戦みたいなイベントがあって。そこで僕、落語をやったんですよ。そしたら、それが意外と評判がよくて、吉本のスタッフが『あいつ、一人しゃべりもイケるんちゃうんか』と思ったらしく、『一人で1時間しゃべってみいひんか』と言われ...それが始まりです。1回目の公演は、大阪のbaseよしもとっていう劇場で、お客さんは100人にも満たなかったんですけど、めっちゃ楽しかったんですよ。『一人でしゃべるのって、こんなに面白いのか』と、そのときに目覚めてしまいました」
――第1回目では、どんなお話をされたんですか?
「今とまったく変わらないですよ。立ち食いうどん屋で見かけた店員のおばちゃんの話とか(笑)、ほんまに他愛のない話を1時間延々しゃべり続けるっていう」
――そこから定期的に開催されるようになり、今度の明治座公演で37回目。回を重ねる中で、何か変わってきた部分はありますか?
「地元の大阪で開催することが多いので、大阪のお客さんにはいつも温かく迎え入れていただいてるんですけど、東京や名古屋の公演も、おかげさまで、だんだんと歓迎ムードが出てきてるような気がします。初めの頃は若干アウェー感があったような気がするんですけど、今はもうホーム感さえ感じられるようになってきて。そこはほんまにありがたいですよね」
――では逆に、変わらず守り続けていることは?
「とにかく、目の前のお客さんにいかに笑ってもらうか、そこに徹することですね。そのためには、自分がおもろいと思ったことをちゃんと伝えないとあかんわけで、そうすると一番大事なのは、とにかく一生懸命しゃべること。もちろん、より面白く感じてもらえるような話の組み立て方を考えたり、お客さんがじっくり笑えるようにちょっと間を空けたり、そういう工夫は自然としてるんでしょうけど、話術のテクニック的なことは自分ではあんまり意識してないんですよ」
――その意味では、このトークライブは、兵動さん自身が日々面白い出来事に出会わないと成立しないわけですよね。やはり、日頃からアンテナを張っているのでしょうか。
「もちろんアンテナも張ってはいますけど、そもそも僕はね、日本一ミラクルが巻き起こる男やと思うんですよ(笑)。おもろいことが向こうからやってくるっていうか。この前もおかしなことがあったんです。今から20年ぐらい前に、高校の同級生と偶然再会したんですね。そいつは卒業を待たずに途中で高校やめてもうた奴なんで、再会できたのがほんまに嬉しくて、携帯電話の番号を交換したんですよ、『今度飲みに行こうや』って。そしたら、そいつが『番号は教えるけど、俺はまだお前と飲みに行けるほど、ちゃんとした人間ではない』と。『もっと努力して、ちゃんとしたら、こっちから連絡するから。それまではそっとしといてくれ』って言われて。僕も感動して、『わかった! 俺も携帯番号変えへんから、いつでもかけてこいよ!』言うて、熱い感じで別れたんです。で、それから20年後...ついこの前ですよ、ぱっと携帯見たら、そいつから『LINE POP』に招待されてたんですよ(笑)。いやいや、あの20年前の誓いは何やったん? って。そいつがまたね、タイムライン見たら最高得点ばっかり出しよるんです。でも、僕からは連絡できないでしょ。いい加減、腹立ってきてね。『早よ、ちゃんとした人間になれや!』思うて」
――(笑)。面白いことを引き寄せる力を持っているのかもしれませんね。
「そうなんですかねぇ。でも、自分から敢えて面白いところへ飛び込んでいくことも多々ありますよ。たとえば、占い師のところへ行ってみたりとか。ちなみに、その占い師によると、僕の前世は江戸時代の女の子らしいんですよ。「女の子の名前は何だと思います?」って聞かれたんで、適当に「おりょうちゃん、ですかねぇ」って言うたら、そこからずっと僕のこと「おりょうちゃん」って呼んでましたけど(笑)。見料6千円ぐらいしたんですけど、全然惜しいとは思わなかったですね。だって僕、ほんまに前世を知りたいわけではないですから。『おしゃべり大好き。』でしゃべるネタを作りに行ってるわけやからね」
――では改めて、兵動さんにとって『おしゃべり大好き。』とは...?
「それはもうずばり、"ライフワーク"ですね。『おしゃべり大好き。』は、これまでずっと年に何回かのペースで続けてきたんですけど、この1年、ちょっとお休みしてたんですね。そしたら、やっぱりちょっと調子がよくなかったんですよ。芸人として、どこかやりきれてないような、不完全燃焼感があった。それはもちろん、人並みに年季は積んできてるんでね、芸事に関しては、ある程度余裕をもって、いろんなことができるようになってきている実感はありますけど、それでも『おしゃべり大好き。』みたいな緊張感を持つ場は絶対に必要なんやろうなと。ぶっちゃけ、準備段階もしんどいんですよ。当日の構成をパソコンでまとめたりして、『めんどいなぁ』なんて思うこともよくあるんですけど、そう言いながらも、ライブのためにコツコツ作業してるときのほうが、芸人としての健康状態ははるかに正常やと思います」
――"芸人・兵動大樹"にとって、一人しゃべりは、本業の漫才と地続きなものなのでしょうか。
「漫才は基本的に、相方と僕の二人の間を見ていただくものなんですね。そこにお客さんの間というのも関わってくる。で、一人しゃべりっていうのは、僕一人対お客さんの間で作っていくものなんです。そういう違いはありますけど、広い意味では、たぶん同じものやと僕は思ってるんですよね。俗に言うネタ振りとか、空気作りとかは、漫才も一人しゃべりも一緒ですから。ただ、だからこそ僕は『おしゃべり大好き。』で、一人しゃべりというものを極めたいんです。そして、一人しゃべりで極めたものを漫才に持って帰ってきたときに、さらにパワーアップしたゴリゴリな筋肉の漫才ができるようになるんとちゃうかなって。それは、これから僕がやりたいことやし、芸人としてやらなあかんことやと思うてます。そやから、一人しゃべりに費やす労力や時間は、漫才師としても絶対に無駄にはならないと思うし。極論を言うたら、まずはピン芸人として評価されたろか、ぐらいの気持ちがありますから。で、そこから漫才に帰ってきたときに、『あんなおもろい奴が、もう一人おもろい奴を連れてきて、漫才やってるで! もうエグいことになってるやん!』ってことになったら最高ですよね」
『兵動大樹のおしゃべり大好き。37 明治座公演~大いにしゃべる~』
会場:明治座
日時:12月24日(水)
開場18:30/開演19:00
料金:前売=S席2,500円、A席2,000円/当日=S席3,000円、A席2,500円
チケットよしもと(http://ticket.yoshimoto.co.jp)、チケットぴあ、イープラス、ローソンチケット、よしもと各劇場(祇園花月除く)で発売中
問合せ:0570-550-100(10:00〜19:00/チケットよしもと予約お問い合わせダイヤル)
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