最新ニュースインタビューライブレポート

« よしもと漫才劇場の極メンバー総出演!初の「ネタバトル」が開催決定!! | メイン | 「調子のっちゃって」 ボイス付き実写風アニメでゆりやんスタンプ新登場 »

2017年5月25日 (木)

ピース・又吉が小説第2弾『劇場』の主人公・永田について「いちばんしんどいやり方を選んでいるという部分で応援したくなる」と語る!

5月11日(木)に、ピース・又吉直樹の小説第2弾『劇場』(新潮社刊)が発売されました。

本作は劇作家・永田と女子大生・沙希との恋愛模様、幼なじみと劇団を立ち上げて劇作家としての成功を夢見る永田の理想と現実の狭間で葛藤など、ものづくりを志す若者のリアルな姿が描かれています。
今回は、単行本発売に先駆けて行われた合同取材会でのインタビューを公開します。
20170524152542-ea001097cc3f6493813ffd6179b7b10f7198ec1c.jpg

 *  *  *  *  *

――まず、今作で演劇を題材にした理由を教えてください。

「演劇が好きな表現のジャンルの1つだからですね。演劇以外の設定も考えてはみたんですけど、いちばんスッと入って来たということです」

――又吉さんは芸人さんですが、役者さんの相違点ってどんなところに感じましたか?

「劇団に所属している方や演劇をやっている方とお話ししたとき、演出や演じるということに対する意識は明らかに違うなと感じました。舞台に立ってお客さんの前で何かを表現するっていう共通点はありますけど、明らかな違いがあった。それを具体的に説明するのは難しいんですけど、演劇を題材にしたのは......例えば、主人公・永田と恋人・沙希の出会い方とか東京で何かしら夢を持っている人っていうことを考えたときに、自分がいちばん(物語へ)入っていけたいうか。楽をしたということじゃなく、演劇をつくる人達がどんなふうに世界や日常の風景を見ているのかを考えるのは楽しいやろうなと思ったんです。もしかしたら、格闘家とかでも面白かったかもしれない。サッカー選手も空間の把握の仕方とか特殊なものがあるので面白いんでしょうけど、そのとき書きたいと思ったのは劇作家という設定でした」

――今作の執筆にあたってのスタート地点は?

「東京で暮らす若い男女の関係性を書いたら何か見えてくるかな、っていうところがスタートですね。それに僕、コントを作るときはコンビなので、登場人物は2人で。むちゃくちゃ変な人がいて、それに対して全うな人が正していくという関係性というよりは、変な人に対して一見真っ当そうに見えるけど、実は変な人が出てくる。そういう変な人と変な人が関わっていくほうがいびつなかたちが出て来るんで、僕は好きなんです。『火花』では先輩後輩っていう関係性を描いて見えてきたものが結構ありましたし、恋愛というのも興味が......ふふふっ、興味があるっていうと自分が妖怪か何かみたいですけど(笑)。まぁ、一度じっくり考えてみたかったということです」

――実際書いてみて、男女の関係性について魅力を感じたところは?

「僕自身、結婚もしていませんし、恋愛っていうもの自体よくわかっていないというか、すごく難しいものだと思ってるんです。基本的に人は好きですし、女性を好きになることももちろんあるですけど......なんて言うんですかね? 人間と人間が出会って知り合って関係を深めていくっていう行程は、人によってバラバラじゃないですか。そういうことも含めて面白いなと思います」

――沙希は非常に優しいというか、永田を包んでくれる女性ですよね。全てを受け入れる女性というのは、太宰治が描く女性ともイメージできますが。

「あぁ......太宰の小説に出てくる女性はいろいろといるので一概には言えないんですけど、『ヴィヨンの妻』は支える女性が描かれてますよね。でも、『キリギリス』のように女性は反撃する短編もある。太宰の短編に出てくる男女の関係性って、男性のダサいところ全部気付いてんねんぞっていうところを意識して書いているものもあると思います。太宰がああいうふうに書いているから、自分はこう書こうとは考えてなかったですね。僕は設定から入ったというよりは、男女2人の日常的な暮らしを描いている中で仕事やコンプレックスに対して我がままだったり、自己中心的な部分があったりする主人公に対して、女性が正直にどう反応するかを想像して書いていっただけ。全てを受け入れる女性として描いた訳ではないですね」

――『火花』では神谷と恋人・真樹として男女の関係を描いていましたけれど、『劇場』では前作より女性に対しての意地悪な視点――例えば部屋のオシャレに関してなど――見えにくいところも描いていたと思います。そういうのは、前作で書き足りないと感じたから描いたということはありますか。

「『火花』を書く前に、この小説の冒頭50~60枚くらいを書いて編集の方に読んでもらっていたんです。なので、書き足りなかったというよりは『劇場』のイメージみたいなものが先にあったからこそ、『火花』でああいうかたちに出たのかもしれないです」

――執筆途中に『火花』を書き上げたということですけど、『劇場』を書きあぐねていたのはどういう点だったんでしょうか。

「結末を考えずに書いていたので、2人がどうなっていくのかというところで永田などの登場人物に対して大丈夫か? っていう不安なところが、僕の視点としてあったんですかね?......そもそも、書きあぐねてたんかな? とにかくいちばんパワーを使ったのは、その辺りかもしれません」

――主人公・永田は他者に対する妬み嫉みを持っている部分がありますが、その辺の表現で難しかったところはありますか。

「永田は、徹底的に他者を認めないっていう人間ではない。周りの能力の高さとか魅力とかに気付いているからこそ苦しんでいて、認めたくないっていう部分が強い人やと思うんです。そこに感情移入していくのは大変やったんですけど、想像するとなるほどなと思う部分もありました。書いている僕も若い頃、妬み嫉みを持ったときって一瞬あったと思うんです。けど、僕自身はどっちかと言うと見ないようにしていたというか。初めから負けるって決めてたほうが楽やな、みたいな。這いつくばってますっていうスタンスのほうが、例えばたまにラッキーなことがあったときもすごく得した気持ちになれる気がしていたんです。でも、永田は甘んじない。這いつくばってますっていうのはカッコ悪いと思っているし、勝ってますって思い続けるのもカッコ悪いと思っている。そういうスタンスって相当しんどいやろうなと思うんですけど、タイプ的には嫌いじゃない。問題点はいろいろとある人ですけど、いちばんしんどいやり方を選んでいるという部分で応援したくなりますよね」

――モデルになった人は身近にいるんですか?

「いないんですけど、例えば物語の冒頭、発射台というかたちは、自分の若い頃の感覚を頼りにしたところもありましたし、僕らくらいの世代の若い頃ってどんな感覚やったかなっていうのは多少ヒントにしたというか。まぁ......割と、僕の周りにはああいうタイプの人が多いんですよ(笑)。『永田はひどいヤツや。あそこまでのヤツは見たことない』とか言うてくる友達がいるんですけど、"お前、割とそうやけどな"って思ったりしてます。もちろん、僕にもそういう部分があるでしょうし、永田ってそこまで突飛な人物ではないと思いますね」

――同棲しているという状況において性的な描写は欠かすことができないものではないかと思うのですが、今作でそういう部分の描きが少ないことについてはどう考えていますか。

「性的なものを描くっていう方法もありますよねぇ。でも、描こうと思わなかったというか、描かんとこうとも思わなかったというか。自然とこうなって......あの、別に強がる訳じゃないんですけど、描くのが恥ずかしかったとかではないですよ?(笑)」

――(笑)。

「男女が性的な意味で結ばれるのも重要なポイントではあって、描いてあってもおかしくないですもんねぇ? うーん......もしかしたら、2人がお互いのことをよくわかっていないというところから段々と日常の会話の中で距離を縮めていくという中で、裏にある2人の繋がりを想像してもらえるようには描いたんかなとは思ってますけどね」

――芥川賞を受賞されてから2作目の小説となりますが、注目される分、執筆へのプレッシャーや難しさも当然あったんじゃないかなと思います。

「『火花』でいろんなご意見をいただいて、僕の耳に直接届くものは大体誉めてくださったものやったんですけど、その誉めてくださった感想の中に意図的にやったのかわからない部分がたくさんあった。で、僕の特性ではなく、たまたまよかった部分もあったのかなとか肯定的な意見の中にもぶつかるところがあったので、次作を書くときに誉められたことをもう1回全部やろうとか批判された部分を直そうとか、ついつい考えちゃって。『火花』を書く前に書いていた50~60枚の原稿は気に入ってたんですけど、(『火花』が世の中に出て)いろんな感想をもらってからその原稿に戻ったときに、いろんな人の視点が僕の中に入ってしまって世の中の人全員がわかるものを書こうとしてしまったんです。で、始まりの場面を変えてみたり、主人公の職業を変えてみたりといろいろと試して、もっとわかりやすく小説に入っていきやすいようにしたいと考えて3回くらい書き直しました。そうやって時間をかけて書きながら1年くらい経って段々と落ち着いてきたときに、当たり前のことに気付いた。そもそも、僕はみんなに好かれている人間じゃない。ごく一部の人が頑張れって応援してくれて今まで生きてきただけなんや。なんでお前が、みんなの要望に応えようとしてるねん。好きなことをやるっていう前提を忘れてるやん、と思ったら吹っ切れた。そこで、それまで書いたものを読み直したら、やっぱり最初に書いた60枚がよかった。わかりやすさは置いといて、体重乗ってるなと思ったので――もちろん細かい部分の表現は変更してますけど――最初に書いたものを採用して続きを書きました。僕みたいなもんは、自分のできることしかやれないっていう基本的なところに戻れたのがよかったですね」

――吹っ切れた時期は、『火花』を発表してから1年後くらいだった?

「1年くらいは怯えていて、"あ、これでいけるかも"と思ったのは昨年9月くらい。割とまとまった原稿が書けた時期があって、書いている時に少なくとも僕は疑いなく好きやなとかこの世界を描いていきたいなと思えていました。まぁ、厳密に言えば、今もビビってますけどね(笑)」

――前作も今作も、才能というものがテーマとして描かれていますが、又吉さんご自身、才能を題材として描き続けるのは何か理由があるんですか。

「今36歳で、芸人になろうと思って上京したのが18歳のときでした。養成所に入ったので、400~500人くらいの人達がみんな、自分に才能があると思って集まっている中で、僕は二面性みたいなものを持っていて、"いける"って思うときと"絶対ムリや"って思うときっていう2つの思いが当時からあったんですね。で、なぜ才能の話を書きたかったのかなというと年々、自分の可能性を信じる感覚みたいなものって薄れていくと思うんです。18歳くらいのとき、もっと言えば中学生の頃ある日、突然、スーパーパワーが宿って世界の悪と戦えるようになるんじゃないかとか、急に世界の格闘家が集う大会に出て優勝する日が来るんじゃないかとかって考えていた。もちろん、そんな日は訪れないんですけど、こうしたいって思うことが実際にできないっていう......現実の落差っていうんですかね? その距離間みたいなものが、そのまま苦しみに繋がっていったりするんじゃないですか。恋愛でも、この人と付き合いたいと思っているのに付き合えないのは苦しい。僕は子供の頃からモテへんとか怒られるとか考えやすくて、さっき話したように負けから入るっていう考え方をするところがあるんですけど、それでも若い頃は才能みたいなものへの希望をもう少し持っていたと思うんです。うちの相方(綾部)がニューヨークへ行きますけど、みんなどこかで"これは無理や"って緩やかに諦めるじゃないですか。綾部はそうしてないのがすごい。例えば、さっき話したように若い頃は希望と現実の落差でもっと苦しめたんですけど、歳を重ねるとそういうことって少なくなると思う。夢を持っている若者に「できることとできひんことがあるで」とか言うおじさんとか苦手なんですけど(笑)、こと自分のことになると無理やって自己判断してしまうときもある。そういう感覚を振り返れたり、感情が伴ったりするというところから、こういう題材を選んだように思います」

――才能はなくても人生を諦めることはないというか、希望はまだまだあるんだという気持ちもありますか。

「もちろんあります。自分の能力とどう向き合っていくかって、上手な人とすごく下手な人がいますよね。だから、才能があるかないかというよりは、自分の能力や性格をどう活かしていくか。それを考えたほうが、幸福に繋がっていきやすいのかもしれないですね」
20170524152620-cbcf932af9520ed47fd72544267314fe7c574a3d.jpg


【又吉直樹】【ピース】

小説『劇場』

著者:又吉直樹
定価:1300円(税別)
新潮社刊