「今までで一番饒舌」大屋あゆみ、聴覚に障がいがあっても楽しめる「劇団アラマンダ」を旗揚げ
8月17日(金)、よしもと沖縄花月で大屋あゆみを発起人とした手話劇団「劇団アラマンダ」の旗揚げ公演「先生(しぇんしぇー)」が行われました。
「先生(しぇんしぇー)」は勉強嫌いだけど天真爛漫な主人公の男子高校生を大屋あゆみ、同級生の女子をハイビスカスパーティーのちあき、担任の先生を島袋忍、忍先生の同僚を利根川ホプキンスの岩田勇人、ちあきの父親を利根川ホプキンスの又吉ヒロト、高校の近くにあるパーラーアラマンダを経営する兄妹役をピーチキャッスルの真栄城将、ハイビスカスパーティーのゆかをキャストに、パーラーアラマンダで繰り広げられる笑いあり、人情ありのドタバタコメディーを描いたものです。
両親共に聴覚に障がいがあり、日本語よりも手話を先に覚えた、という大屋あゆみ。手話を交えた「観て楽しむお笑い」を行うということで、会場には聴覚に障害のある方も多く来場し、着席するときも互いに手話で助け合う姿が見られました。
開幕と共に満席の観客からは大きな拍手。また、音だけでなく、両手を挙げてひらひらと手のひらを振る、手話の拍手も場内を飾り、会場は暖かい空気に包まれました。
大屋は演技しながら手話をこなし、島袋もセリフに合わせて手話を多用、兄妹役の真栄城とゆかはタイミングを合わせたツッコミ手話を行い、演者は全員全身を大きく使ってお笑いを表現し、会場から絶えず笑い声を浴びていました。また、手話のサポート役として太陽に扮し舞台袖に立っていた沖縄県聴覚障害者情報センターの大嶺文子さんも時々演者からの絡みを受け、観客からは笑いの嵐。普段は劇中にはタイトルが表示されるだけの舞台両端にあるモニターも、この日は劇のあらすじを映したり、場面転換を知らせたりと大活躍していました。
舞台が終わって、一人づつ挨拶。それぞれが自分の名前を手話で表現した後、口々に「手話は初めてだから反応が気になっていたけど、皆さんが楽しんでくれてよかった」と言う中、大屋は「初めての手話劇なので、大変緊張し不安もありました。笑いを始めて7年、いつかは手話を用いた劇団をやろうと思っていたことが、ここで形にできました。私は両親とも耳が聞こえないので、気付いたときから手話で暮らしてきました。でも、一切不満はありません。まだまだ半人前だけど、この公演をこれからも続け、お笑いの面でも、手話の面でも一人前にできるように頑張りたいと思います。この手話劇をするために多くの人に支えられてきたので、公演ができたことをみなさんに感謝しています」と号泣。真栄城に「ちょっとー、(よしもと沖縄花月は)こんなに感動する場所だった?今までで一番饒舌じゃない?!」とツッコミを受け、大屋は泣き笑いしながら「今日初めて手話を見た方にも身近に感じてほしい」と、ステージも観客も全員で手話ソングを歌うことを提案します。
会場に流れる音楽に合わせ、舞台では大屋を中心に手話の振りつけを披露、モニターにも歌詞と手話の振りを映し、来場者は一緒に音楽に乗せて手話で歌っていました。
劇の終了後、那覇市から来たという女性、新垣さんは「聴覚に障がいがあると行く場所が限られてしまうので(このような劇が)続いていってほしい」と話し、宜野湾市の女性、赤嶺さんは「演者の表情が伝わってきて良かった。障がいがある人とない人が一緒に笑える場所があるのはとても素晴らしいことなので、ぜひ続けてほしい」とにこやかに話していました。
閉場後に行われた囲み取材で大屋は「耳の日のイベントで、手話通訳付きのお笑いステージの時間をもらったとき、観客の反応を見て『言葉がなくても笑いは伝わるんだ!』と思ったことと、ちょうど同じ時期にR-1ぐらんぷりで濱田祐太郎さんが優勝したことがあって、障がいがあってもなくてもお笑いに取り組むことができることがわかり『今やらなきゃ!』と感じた」と、劇団の立ち上げを決心したと話し、「聞こえる人は動画だったり、漫才だったりと娯楽に選択肢がある。けれども聴覚に障がいがあると、娯楽の選択肢が狭まってしまう。狭い中で、選べる娯楽をもっと増やしたい。私はコーダ(聴覚障がい者を親に持つ、耳が聞こえる子供)で、聞こえる人と聞こえない人両方の気持ちが分かるから、自分が伝えていかなければ、と思った」と信念を語りました。
また、ズッコケや頭をたたいたりするアクションなど、手話以外でも目で見て伝わりやすいアクションを多く取り入れ「観て楽しむお笑い」づくりを進めたことを明かし、「今は夏休みだし、お笑いを若いうちから目で見て楽しんでほしいから、そのうちろう学校の生徒を呼べるようにしたい。気軽に出かけられる娯楽がない、とあきらめている人がもしいたら、その人にも外に出るきっかけになれるように、まずは沖縄で手話劇を広めて、楽しむことの権利があるんだと県外でも伝えられるようにしたい」と今後の抱負を述べました。
この日会場に駆けつけた大屋あゆみの父親、大屋初夫さんは「稽古で帰りが遅くなるから心配していたけれど、仲間と協力して劇を作っていたことがわかって感動した」と娘をねぎらい、「とてもいい動きだった!涙が出そうなくらい感動した。音だけの演技だと何もわからないけれど、動きも手話もあって分かりやすかった。全部面白かった」と顔をほころばせました。