「吉例 第三十四回 88 桂文珍独演会 ~人工知能は伝統芸能に勝てるか~」
8月8日、なんばグランド花月にて夏の風物詩ともいえる桂文珍「吉例 第三十四回 88 桂文珍独演会 ~人工知能は伝統芸能に勝てるか~」が開催されました。
桂文珍による独演会も今年で34回目。開口一番を務めたのは文珍のもうひとつの顔、桂珍幻彩(ちんげんさい)です。「今日は10時から働いておりました。すでに3回公演を終えた後にこの独演会をやらせていただきます。なんばグランド花月、NGK。"なんぼ(N)銭(じぇに)稼いだら(G)気ぃすむねん(K)"」とぼやき、お客さんは大笑い。また、この日の午後3時から天皇陛下がお気持ちを表明されたことに触れ、「お気持ちをお述べになられましたが、よくわかりますわ」とし、「皇太子さまがいてはるさかいに生前退位ができるわけですが、私のところはふと振り返ると楽珍しかいまへん」と吐露。「今日は楽珍の出番がないもんですから、彼は裏で喜んでおりました。本人も安心したんでしょう。楽屋でものすごく盛り上げておりました」と今回は出演しない楽珍にも触れ、お客さんは大喜びでした。続いて高校野球、リオ五輪など今の話題にも触れつつ、「定年の夜」へ。定年を迎えたお父さんが帰宅するも、娘はSNS、息子はポケモンGO、妻は友人とスマホで明日の旅行の相談でお父さんには興味なし。寂しくなったお父さんもスマホを駆使して店を検索、見つけた飲み屋に出向くも、そこでスマホを触っていたところスマホの中に吸い込まれてしまい...。行き着いた先は"メディアの海"。果たしてお父さんの運命は? そして本公演のサブタイトルにもなっている人工知能とは...。スマホに依存するお父さんとその家族をこっけいに描いた物語です。
続いては弟子の文五郎が登場。文五郎は、なんばグランド花月で落語を披露するのは初めてということで、お客さんから大きな拍手が! 軽快に上方落語の「牛ほめ」を披露しました。
中入り前に登場した文珍は、初めてなんばグランド花月で落語を披露した文五郎を改めて紹介します。「バイクの整備をやっていた工場長が3年経ったらああなるんやから、おもしろいなぁ。一生懸命やりました」と文五郎のがんばりを称えつつしみじみ。また、落語は今の若い人にとり古い言葉が多く、苦労もあると明かします。「"へっつい"ってわかるか?」と尋ねても首をかしげる弟子に「かまどのことや」と教えたところ、弟子がスマホの音声アシスタント機能を使い「かまど」と検索するという珍事を披露。マクラで存分に客席を温めたところで、へっついに取り憑いた幽霊と博打をする「へっつい幽霊」を口演しました。
中入り後は特別ゲスト、能楽師の茂山宗彦さん・逸平さん兄弟が登場! 狂言「柿山伏」を披露しました。修行を終えた山伏が故郷に帰る途中に腹が減り、大きな柿の木に実った柿を無断で食べてしまいます。その様子を目撃した柿の木の持ち主は、山伏をからかってやろうと、柿の木に登っているのはカラスだ、サルだ、トンビだと次々と言い、そのたびに山伏はごまかすために鳴き声を真似るのですが...。イタズラ好きの柿の持ち主と、自分の過ちをごまかそうとするこっけいな山伏の姿がお客さんを大いに沸かせます。
続いて登場した文珍は、「本当に狂言はおもしろい。日本の笑いの原点を見せていただいた思いです」と茂山さん兄弟を絶賛。その後は故・永六輔さんとのエピソードにはじまり、五木寛之さん、ケーシー高峰さんとのエピソードを交えて客席を沸かせます。ひと息ついたところで「夏らしいところでお付き合いいただこう、と」と「船弁慶」を口演。「私どもの師匠の文枝が得意にしていた噺でございますが、弟子としては、やらせてもらうと、どうも文枝が出たり入ったりします。師匠の声は音程が高うございまして。いつも稽古も難しくてね。"感覚の人"でございましたので、『師匠、ここはどうやったらよろしいの』と尋ねたら『こんなんピャーッてやったら客がドンと笑うんや』と、なんやわからへん師匠でございました」と振り返り、お客さんは大笑いでした。
34回目の「88 桂文珍独演会」もついにお開き。文珍は「船弁慶」を振り返り、「どういうわけかまだ若い時分に稽古してもらったのはよう残ってまんのやろうな。勝手に出てくるんです。最近覚えたのはよく忘れるんですが」と語り、最後の最後まで大盛り上がり。「来年はいよいよ35年ということになります。元気で皆さんの笑顔にまたお目にかかりたいと思います」と締めくくりました。来年の8月8日はいよいよ35年という大きな節目。記念すべき次回も、ぜひご来場ください!
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