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2018年12月12日 (水)

笑い飯・哲夫が自身初の本格青春小説『銀色の青』について語る!「改めて読んで、時間返せやって思いました」

今年11月に初めての本格青春小説『銀色の青』(サンマーク出版刊)を発刊した笑い飯・哲夫。

本著は、そこそこの進学校に通う高校生・田中清佐(きよすけ)が、ある日、クラスメイトで野球のエースピッチャー・ベースに100円を貸したことから始まる物語。思春期ならではの心の葛藤、友達との距離感など細かやな心の機微が繊細且つ緻密に描かれた1冊となっています。

よしもとニュースセンターでは、笑い飯・哲夫を直撃。発売から1ヶ月以上経った現在の心境、そして本著への思い、読書家として知られる彼が思う本のよさなど余すところなく語ってもらいました。
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――発売前は小説を出すこと自体を随分と恥ずかしがっていた哲夫さんですが、時間が経って心境に変化はありましたか?

「今はもう諦めている感じですね。いつも例えていることなんですけど、風呂場で自作の曲をカッコつけて歌うてて、あがった時に母親から『あんた、歌うまいやん』って言われるのって、めっちゃ恥ずかしいじゃないですか。まさにそういう気分やったんですけど、今は全然知らん人から面白かったと言われるようになったので、恥ずかしい気分がだんだんマシになってきました。桂吉弥さんっていう落語家さんや本を渡した後輩がめっちゃ面白かったって言うてくれてますし、いろいろと反響もチェックさせてもらってます。売れ残るのがいちばん嫌なんで売れ行きや評判が気になって、めっちゃ検索するようになりました」

――そんな心配をよそに、書店からの評判がよくて初版からすぐ増刷されたと伺いました。

「最初に1万部刷ったと聞いて、えぇ、1万?って驚いてたんですけど、増刷になりまして。本屋さんが置いてくれるんはありがたいんですけど、売れ残るんちゃうかと未だに心配です」

――小説についてはいかがですか。発売して少し経ったので、また違う気持ちが湧いてきたんじゃないかなと思いますが。

「製本されたもので読み返してみたんですけど......おもろいですねぇ。後味ゼロにしたい、なんでこんなん読まなあかんかったんやっていうのが最終的な読後感になればいいなと思ってたんですけど、自分で読んでみて"時間返せや"と本当に思いました」

――ははは! 確かに......最後までにいくと、そんなことだったの?感は持ちました。

「そうでしょう。全然読む価値ないやんって思うというか、そこを目指してたんです」

――普通、小説を書くとなると形として残る分、価値あるものにしたいと思いそうですけど、哲夫さんはそうではなかったんですね。

「えぇ。価値のある本をいろいろと読ませてもらっているので、自分がそんなところに乗り込むなんてことはできないなと。やから、真逆にいった感じですね」
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――高校生が登場するお話は、どういう経緯で決められたんですか。

「出版社さんとの打ち合わせで後味ゼロのものや時間を返せってなるものを描きたいという話をしている中で、貸した100円を返してくれへんってずっと悩むしょうもない話にしようということになって。そういうことで悩むのは高校生かなというところからの自然な流れで、こうなりました。100円って返してくれんでもええやんってなりそうでもあり、返してほしいなって思う金額でもあるっていう、あるあるですかね。みんな、1回はそんなん思ったことあるんちゃうかなと思ったので、そういう設定にしました」

――読後感にそういう意図があったとしても、100円を返してほしいと悩む話を膨らませるのは大変だったんじゃないですか?

「そうですね。ただ、スカみたいな題材だけに紆余曲折、右往左往する様を入れていくのは、作業として楽しかったです。出版社さんから100円を返してほしいと悩む内面描写だけで終わらせんとってくださいね、波は作ってくださいねと言われていたので、そういう波を作るのが楽しくて。あと、僕は三島文学の喩えの量とか心理描写が好きなので、多大にパクってる感じがあります。そう、パクリです。今まで自分が読んできて、あれおもろいな、これおもろいなって思った部分が自然と染み付いているので(そういう描写が)入ってしまいました」

――パクリというより、影響を受けた部分が表現として反映されたということですよね(笑)。好みの文体に近くなるのは自然な流れだと思いますが、本作を拝読して10代ならではの世界の狭さがよく表れているなと感じました。また、笑い飯さん、哲夫さんが作られる笑いの世界観とも近しいものがあるなとも思ったんですが。

「1つの設定があったとして、その手前のところでずっとボケ合っているというのが、割と好きですからね。例えば、おばあさんの重たい荷物を持ってあげるという設定なのに、歩き出しのところでウンコを踏んでしまって、結局おばあさんのところまで行き着かへんみたいなんが好きなんです。やから、100円返してくれなんて早よさっさと言えやっていうだけのことなのに、その手前でずっと悩んでいるっていうところは、手前でボケる感覚と確かに似ているかもしれないですね。結局、僕は引っ張りが好きなんです。千鳥で言うたら、おぬしっていうネタとか好きでツボにハマりましたし、もうええって!みたいなお笑いが好きなので」

――主人公の清佐は100円のこともそうですし、友達のことも女の子とのことも考えが割と留まっている人ですよね。

「うだつが上がらんというかね。一歩が踏み出せない感じって誰しもが持っていたことでしょうから、その辺も思春期のあるあるなのかなと思ってます。自分のことを全部入れていると思われるかもしれないですけどそうじゃなくて、8%くらいの自分自身の中のあるあるを投入している気がします。僕の高校時代の同級生ってみんな、めっちゃいいヤツらだったんです。正五角形の性格分布図があったら均等に正五角形ができる雰囲気のヤツが多かったんですけど、今回はいろんな人格を集めて、正五角形の1つの頂点をぶわーっと伸ばしたような人を3人ほど作り上げました。そうなると自然とスクールカーストが生まれるんじゃないかなと思うんですが、頂点にいる人間でも結局、思春期のあるあるの部分が存在すると思っているので、ぜひスクールカーストの頂点にいるような人にも読んでもらいたいですね」

――執筆期間はどれくらいかかったんですか?

「大体3~4ヶ月かな。昨年の12月末にインフルエンザになって、仕事を5日間休まなあかんことになったんですよ。その間、めちゃめちゃペンが進みました。あと、僕は5冊の本を出しているんですが、今まで架空の人物に架空の名前を与えたことがなかったんですよ。とにかく照れくさくて。以前、官能小説を書いたときも固有名詞はまったく出してなくて、なになにな奴っていう描写にしているんです。やから、固有名詞を与えたというのが、自分の中では一歩踏み込んだ作業になりました。また、敬体と呼ばれるですます調ではなく、常体と呼ばれるである調で書いたんですが、それも5冊目で初めてでした。言い切りにすると、体言止めが有効に使えるんですよね。で、使うと、めっちゃカッコよくなるんです。そこも恥ずかしくて。インパクトを残すために編集者さんも『ここは体言止めにしたほうが』みたいなことを言うてきて、さっきもやったから恥ずいねんなぁと思いながら(笑)、体言止めを使わせてもろうてます」

――登場人物に名前をつけたり、体言止めしてたりするのが恥ずかしいなんて、今まで思ったことがなかったです。

「恥ずいんですよぉ。僕とか私っていう一人称も今まで使ったことがなくて。今回も僕やったらかしこまりすぎてるし、俺やったらイキりすぎてるし、私やったら主人公が男の子の場合はちょっとおかしいしって考えていたら使えなくなったんです。で、一人称で始めるよりは、主人公に固有名詞を用いた神目線にしたほうが、自分の恥ずかしさはましかなと思ったんですね」

――主人公の名前はどうやって決められたんですか?

「『犬神家の一族』に出てくるスケキヨっていう名前が好きなので、逆さにして清佐にしたんです。そういうアホらしさが入ってくると、照れが半減するわけですよ」
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――(笑)。どうしてそんなに恥ずかしいんでしょう?

「なんででしょうね? 元々、恥ずかしがり屋の目立ちたがり屋で、芸人をやってるのも目立ちたいからなんですね。ちっちゃい頃は目立ちたいと思っていても恥ずかしいから前に出られへんかったんですけど、段々前に出られるようになると目立ちたがり屋のほうが上回ってきて。けど結局、根底にあるのが恥ずかしがりなのでこだわりっていう部分に恥ずかしさが集約してしまうんです。で、俺なんかが体言止めしてええの?とか思ってしまうわけです」

――ある意味、自分を客観的に見すぎてしまっているんですね。

「そうかもしれないですね。あと、今作の中で僕とは書いてないですけど、たまに一人称目線になっているところもあるんですよ。三島の文体でよくあるのは、ナレーションが情景描写をしているのかなと思いきや、主人公の目線やったりするっていうことなんですけど、今回はこれもパクらせてもろうてます。あと、過去形の中に時たま現在形を入れることによって、風景が浮き上がるという書き方も取り入れていて......。そういう手法、カッコいいんですよ。やっちゃってるんですけどねぇ、恥ずいんです! カッコつけやなぁって思われることをやってます(笑)」

――(笑)。

「あと、クエスチョンマークとビックリマークとかの記号を使うのも、恥ずいから使いたくなくて。今までメールやSNSでもほんまに使ったことがないんですけど、歴史に残る大事なメッセージを書くときだけ、ビックリマークを入れるようにしてるんです。最近使ったのは、小室哲哉さんが引退しはったときかな? Twitterに『TKサウンズは最高です!』って書いたんですけど、この本では使ってません。なんやったら、クエスチョンマークも使いたくなかったんですけど、1ヵ所だけ入ってまして。(と、本をめくり出して)......18ページにあるんです。編集者さんがつけてきたクエスチョンマークに全部つけたくないって返したつもりやったんですけど、消し忘れたのかもしれないですね。けど大事な箇所なので、ここだけはあってもいいかなと思います。ないしは、編集者さんがここだけつけたほうがいいという意図で残してくれはったんかもわからないですけどね」

――哲夫さん、本がお好きだと思いますが、どんなところに魅力を感じているんですか。

「本のよさって半分読んだ時に、"半分まで来たー"って思えるところですよね。そこから早よオチが知りたくて、読むスピードが上がるんですけど、もうちょっとで終わるっていうヒリヒリ感、もうちょっと続いてほしいのに終わってしまうっていうワクワク感をページ数で確認できるのがいい。あと、5ページくらいしかないって思う瞬間は、袋とじくらいのありがたみが表れてるなとも思います」

――そういう意味でも、本著は本で読むことが活きている気がしますよね。オチが......ああいう感じですから(笑)。

「そうですね。さっきも言ったように、後味ゼロになるか、そりゃ何も残らんわなっていう気持ちを楽しんでもらえるはずです」

――今回は恥ずかしがりながら小説を書き上げましたが、今後も執筆への意欲はありますか?

「売れ残ると俺なんかが書いてはあかんのやと思いますが、もし売れ残らないならば書きたいですね。今はまた別の本を書いてるんですけど、依頼をいただければ書いていきたいなと思います。が、とりあえずはこの本が売れ残らないように、みなさんに買っていただければありがたいですね」
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【哲夫】【笑い飯】

『銀色の青』

著書:笑い飯 哲夫
価格:1300円(税抜)
サンマーク出版 刊